日本人は南極の国家的な重要性をわかってない 科学観測だけで処理不能な問題が起こってくる

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日本は国内法を整備して、この議定書を1998年に批准し、発効させました。この議定書により、南緯60度以南の地域における人間の活動に対する環境影響評価の実施、鉱物資源探査活動の禁止、動植物相の保護、廃棄物の処理・管理、海洋汚染の防止、南極特別保護地区の設定などの取り決めが合意されました。また国内では「南極地域の環境保護に関する法律」が施行され、環境省が南極の環境保護に責任を持つことになりました。

国際問題ですから、これらの問題に関しては外務省が主導し、文部科学省(実際には国立極地研究所)や環境庁が協力してきました。海洋資源問題では農林水産省、鉱物資源では経済産業省も関係があります。南極は、IGY(国際地球観測年)の頃とは大きく事情が異なってきました。

当時は科学観測の名のもとにすべてが処理されていましたが、現在は資源問題が絡み、多くの政府機関が関係する、あるいはしなければならない時代になっています。南極に関係する省庁が横並びで増えていっても、各省庁が同じように南極を理解しているわけではありません。南極をいちばん知っているはずの極地研究所の教官にしても同じで、自分の専門分野はともかく、その他の事象について、広い視野と見識がある人は極めて少ないです。

行動許可証取得にあたって環境省からヒアリング

21世紀になって間もないころの話です。私は取材のため、公務以外で初めて南極に行くことになり、旅行業者を通じて環境省に南極での行動許可証を申請しました。すると環境省の担当者から私に電話があり、私の南極での行動をいろいろ聞いてきました。

私は現地の具体的な様子、例えばペンギンルッカリーの規模や状況、ミナミゾウアザラシのハーレムの位置、その周辺での私の活動などを丁寧に説明しました。そのときの担当者が南極の知識をどの程度持っていたかは知りませんが、とにかく相手は素人という意識で、私は丁寧に説明しました。

もちろん行動許可証は問題なくもらえましたが、私自身は何となく自作自演で許可を取ったような、すっきりしない気分でした。条約発効後間もないころで、環境省も勉強期間であったでしょう。現在昭和基地以外の場所に行く人たち、とくに観光客に環境省がどのような対応をしているのかは、私は知りません。

次ページ各省庁間での南極の認識は、ずれがある
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