郷原信郎「検察は神ではなく人は間違いを犯す」 日本人が人質司法にあまり違和感を持たない訳

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郷原信郎弁護士(撮影:木野龍逸)
大阪地検特捜部の検事による「証拠改ざん事件」からこの9月で10年。多くのマスコミは事件の教訓が生かされたかどうかを大きく報道した。長期の身体拘束で自供を迫る「人質司法」などの問題点は解決に向かっているのか。証拠改ざん事件から10年後の今、「法務・検察行政刷新会議」が論点の絞り込み作業を進めている。焦点の1つは、取り調べ時の弁護人の立ち会いを認めるか否かだ。これを認め、人質司法の解決の第一歩を踏み出せるのか。東京地検特捜部検事の経験を持つ郷原信郎弁護士はどう見ているのかを取材した。

証拠改ざん事件後も根本的に「何も変わらなかった」

法相の私的諮問機関「法務・検察行政刷新会議」は、元日産自動車CEOのカルロス・ゴーン被告に対する取り調べ方法が国際的な批判を浴びたことなどをきっかけに、今年5月に森まさこ法相(当時)が設置を表明した。議論は7月から始まり、現在は本格議論に向かう前の論点整理の段階だ。

刷新会議においては、カルロス・ゴーン被告の処遇などを巡る日本の刑事司法に対する海外からの厳しい視線などを受け、①検察官の倫理 ②法務行政の透明化 ③刑事手続きについて国際的な理解が得られるようにするための方策という3点のテーマが提示されている。9月10日までに開催された計4回の会合では、③の一環として「取り調べ時の弁護人の同席」を論点にするかどうかで意見が分かれている。

大阪地検特捜部の証拠改ざん事件では、厚生労働省の局長だった村木厚子さんが164日間も拘留され、弁護人が付かないまま取り調べを受け続けた。その裁判では、証人のほとんどが捜査段階での供述調書の内容を否定するなどしたうえ、証拠改ざんも明らかになり、村木さんの無罪が確定した。取り調べの録音・録画はこのときの“反省”が大きな契機になっている。

――郷原さんは、あの証拠改ざん事件を受けて法務省に設置された「検察の在り方検討会議」のメンバーでした。それに、元東京地検特捜部の検事だった経験もあります。それらを通じて、現在の「人質司法」をどう捉えていますか。また、自供がないと長期間の勾留を強いられ、弁護人も付けずに取り調べを受ける実態を検察官時代には、どう考えていたのでしょうか。

「私が現場にいたのは2003年くらいまでです。その頃は『人質司法』と言う言葉での批判は聞いたことがありませんでした。検察官としては、とにかく被告人が否認している事件で公判を揉めさせたくない、間違っても無罪にしてはいけないということを考える。そうなると、公判を揉めさせないためには、否認している被告人を保釈させないようにしようということになる。そういう発想が検察側では当たり前でした」

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