安倍政権下では「中間層の二分化」が進行した
東京財団政策研究所の森信茂樹研究主幹に聞く

消費税の使途を教育に拡大した
――安倍政権の税制改革を振り返って、いかがでしょうか。
安倍政権には「新自由主義」というレッテルが貼られている。安倍晋三首相自身が保守の資質を持っているし、そういう経済政策を行ってきたことは事実だが、実際にやっていることを見ていくと現実主義で、必ずしもそうでない点がある。
1つは消費税率を2度引き上げ、政府の規模を大きくしたこと。(2015年10月と2017年4月にそれぞれ予定されていた消費増税を)2度延期をしたが、引き上げたという事実は大きい。
私は村山内閣時代に(当時の大蔵省で)消費税担当課長を務めていた。村山内閣で消費税率引き上げの法律ができ、引き上げの決断は(村山内閣の後を継いだ)橋本内閣にかかっていた。ところが、橋本さんはなかなか決めない。
消費税率引き上げに先立って3年間先行減税をやっていたのだが、サミットに出席するということで(消費税引き上げといった政策は)きちんと説明しないといけないという本人の自覚から、ようやく決断された。
そういう経緯を振り返ると、安倍内閣における消費税率引き上げの決断は重い。
――1つの内閣で消費税を2度引き上げたことも異例ですね。
とくに(2019年10月の)2回目の10%への引き上げは消費税の使途を拡大したという意義がある。これまでは年金、医療、介護、子ども子育ての4経費に充てるということだったが、教育が加わった。なし崩し的に使途を拡大したことに違和感がないわけではないが、成長戦略や格差拡大防止でいちばん重要なのは教育だ。
安倍政権は幼児教育を無償化し、低所得世帯の高等教育の授業料免除などを行った。高齢者中心だった消費税の使途を、教育に広げ全世代型になったことを私は評価している。
政府の規模を拡大しつつ待機児童の解消策などを行うリベラルな政策は、若い世代の安心感につながった。若者世代が安倍政権を支持した1つの要因だと思う。
働き方改革も、これまでの日本企業がしがみついてきた日本型雇用を破壊する起爆剤になる政策だ。同一労働同一賃金もリベラルな政策で、安倍政権は保守と言いながら、日本型雇用という岩盤に手を突っ込んで変えるようなインパクトを持った政策を実施した。