日本で「肉食がタブー」とされた意外な歴史事情 1300年前には「肉食禁止令」まで発布された

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なぜ長い間、日本人は「肉食」を嫌っていたのか?(写真:shige hattori/PIXTA)  
今では当たり前となった「肉食」だが、昔は決して破ってはいけないタブーとされていた。日本人が肉食を忌み嫌った歴史背景とは? 歴史研究家の河合敦氏による新書『繰り返す日本史』より一部抜粋・再構成してお届けする。

穢れ(けがれ)というのは、死者だけが発するものではない。自然のあらゆるものには霊が宿っており、うっかり悪い霊に触れてしまうと穢れが発生し、人間に害をなすので禊(みそぎ)や祓(はらい)によってそぎ落とさなくてはならなくなる。こうした考え方をアニミズムといい、世界の多くの地域に存在する原始的な宗教・信仰である。日本の神道もその1つで、まさに八百万の神が万物に宿る霊威にあたる。

私も子どもの頃、お風呂場でおしっこをしたりすると、お風呂の神様の罰が当たると母親に叱られたが、このように今も日本人の中にアニミズムはしっかり根付いている。

「犬」は穢れを持ち込む動物だった

さらにそうした観念を強化したのが仏教である。例えば、仏教では動物は不浄といって穢れた存在であった。現在も、神社や寺院といった聖なる空間には入れないことが多い。とはいえ、平安時代の藤原道長のように、動物をペットとして愛玩する貴族は多かった。

ただし、犬は穢れを屋敷に持ち込むことがある。行き倒れ人や墓の死体などを掘り返して食べてしまうからだ。しかも、食べ物をほかの場所に移して埋める習性があるので、貴族の屋敷には、犬が持ち込んだ死体の一部が放置されることがあった。これを「咋入れ(さくいれ)」と呼ぶ。このようなことが起こると、その貴族は30日間穢れを落とすために屋敷に籠もらなくてはならない。

そこで平安時代には、野犬を見つけると容赦なく追い払った。御所内でも野犬が増えると、犬狩と称して宮門をすべて閉じ、大内裏の縁の下から犬を追い出し、官人が弓矢をもってこれを狩る行事があった。ただ、犬を傷つけない矢を用いたようで、捕まえた犬も殺さずに犬島という場所(おそらく川の中洲)へ流していたとされる。

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