ソフトバンクG、巨額の上場株投資に見えぬ戦略 孫正義氏は膨らむ「軍資金」を何に使うのか

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孫正義会長兼社長は海外の上場株投資をどこまで増やすつもりなのか(撮影:尾形文繁)

たった3日で1兆円近い時価総額が吹き飛んだ。ソフトバンクグループ(SBG)の株価は9月9日までに前週末から10%あまり下落し、終値は5677円をつけ、2カ月ぶりの安値に落ち込んだ。

きっかけは9月4日、海外メディアが相次いでSBGによるアメリカIT企業株の巨額取引を報じたことだった。イギリスの大手紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によれば、SBGは株価上昇を見込み、過去数カ月でIT企業株の「コールオプション」(あらかじめ決められた価格で購入する権利)を40億ドル買い入れた。その目算は当たり、すでに約40億ドルの含み益が出ているという。これについてSBGの広報担当者は「個別の取引についてはコメントしない」としている。

8月に巨額の米国株投資が判明

コールオプションの買い手は、売り手に対し「プレミアム」と呼ばれる権利料を支払う。株価が値上がりすれば少ない投資額で多くの利益を生むことができる分、値下がりを受けて権利を放棄すれば、支払った権利料はすべて損失となる。ハイリスク・ハイリターンの取引手法だ。

IT企業が多くを占めるアメリカのナスダック総合指数は3月以降一貫して上昇を続けたが、9月3日からの3日間で約10%下落するなど調整局面に入った。先述の報道の通りに9月初旬までに40億ドルの含み益があったとすれば、大きく縮小している可能性がある。SBGの株が売られたのは、巨額の株取引に対し、アメリカ株市場の下落が影響するとみたからだろう。市場はSBGの投資スタンスに対して「NO」を突きつけた形だ。

SBGは2020年3月、過去最大規模となる最大2兆円の自社株買いや負債削減のため、最大4.5兆円に上る保有資産の売却・資金化(資産売却プログラム)を発表。その後、株主還元や財務改善が好感されて上昇を続けた。資産売却プログラムは当初、1年をかけて実行する予定だったが、中国アリババ集団株の先渡売買契約やアメリカのTモバイルUS株の売却などにより、8月までに4.3兆円分のメドを付けた。

こうして得た余剰資金の運用や資産の多様化を目的として、SBGは現在、アメリカの上場株への投資を強めている。すでに2020年4~6月にはSBG本体が1兆円超を上場株に投資し、約650億円の売却益を得ている。8月17日に規制当局へ提出された文書では、6月末時点でアマゾンやアルファベット(グーグルの親会社)、マイクロソフトなどアメリカ市場に上場するIT企業の25銘柄を保有(総保有額約36億ドル)していることが明らかになった。

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