入り口からのデータ整備が、DXの近道 2025年の崖まで5年、BtoB企業の勝ち残り戦略

DXを実現するための順序、データの重要性
一般的にDXを実現するには以下の3つのステップがある。
- ステップ1:デジタイゼーション
- 紙の伝票、カルテ、名刺などの情報をデータ化し、デジタル情報として扱えるようにすることである。
- ステップ2:デジタライゼーション
- デジタル技術を活用して導入・業務プロセスを変換することにより、効率化やコストの削減を実現することである。
- ステップ3:デジタルトランスフォーメーション(DX)
- デジタルデータを基にデジタル技術を導入することにより、新しいサービスやビジネスモデルを生み出すなど、データから付加価値を創造し、変革していくことである。
- 「名刺」を例として挙げた場合は、以下図のようになる。

- このように、DXはデータが主役と言っても過言ではなく、データを中心に考えることが重要だ。
データを集めるだけではDXは実現できない
DXを進めるためにはデジタルデータは非常に重要な意味を持つが、データの重要性を理解していても、さまざまな課題に直面する。
「企業内では部門ごとにさまざまな業務システムを導入しており、データ活用における課題が部門によって異なっています。例えば、営業部は顧客の納品処理を早く行うため、データ登録を簡素化したいと考えます。一方、マーケティング部門は分析を行うために、もっとデータを精微に集めたいと考えています。データを集める時点でも、こうした矛盾する課題がたくさん存在します」(湯浅氏)
DXはとくに複数の業務システム間連携が必要となり、システムを有効活用するためには統合データが重要なキーとなる。しかし、集める時点の入り口でデータが正しくそろっていないと、システムがうまく連携できない。
まずは、データが入ってくる段階から整備することが重要である。それではランドスケイプ社が支援したDX事例を2社紹介しよう。
DXを加速させるデータ活用法について、タイアップ一覧はこちら
事例(オウケイウェイヴ社)
オウケイウェイヴ社はFAQ/お問い合わせ管理システム「OKBIZ.」をはじめとするQ&Aのノウハウを生かした製品を開発・提供している。
「オウケイウェイヴ様はイベントや展示会で集めた名刺をマイクロソフト社のDynamics 365内に取り込んでいました。しかし、人名や社名の表記ゆれ、社名変更が原因でデータが重複して登録されてしまうという問題が発生しました。例えば、ある顧客に対して新旧2つの所属情報で2回アプローチを行ってしまい、非常によくない結果をもたらしてしまうのです」(湯浅氏)
上記の課題を解決するため、独自のシステムでデータ整備を行っていたが、1週間の間に交換した名刺をデータ化するまでに約10日の時間を要していた。これではアプローチするまでに10日以上かかってしまい、好機を逃してしまうという致命的な遅延となる。
そこで、オウケイウェイヴ社はデータ統合ツールや名刺管理ツールを導入。
名刺を自動でデータ化し、さまざまなチャネルから入ってくるデータの一元管理を可能にした。さらにDynamics365とデータ連携もでき、10日の遅延も解消されている。

「『標準化(Normalize)』だけでなく、『一元化(Integrate)』、『補正(Correct)』をデータ化される入り口で自動化することができました。また、『属性付与(Enhance)』も自動で行うため、企業属性に合わせた顧客ターゲティングが可能になります。その結果、セグメント可能企業数が4倍となり、受注数が導入前年比の1.25倍という成果につながっているそうです」(湯浅氏)
このように、データ整備の工数を削減し、リアルタイムでのデータ反映を可能にする。その結果、営業プロセスの劇的な改善をもたらし、DXに近づくことができているといえるだろう。
事例(セゾン情報システムズ社)
セゾン情報システムズ社のHULFT事業部は、ファイル転送ツール「HULFT」やデータ連携ツール「Data Spider」などの製品を販売している。リード獲得、ナーチャリング、営業活動といった各工程を連動させており、各工程にはオラクル社のEloqua(MA)やセールスフォース・ドットコム社のSalesforce(CRM/SFA)などを導入している。
「各工程を連動させた際に、表記ゆれやデータの欠落などの問題が発生し、ツールの機能が十分に発揮できないという課題に直面していました。具体的には、Webから問い合わせがあったリードデータが、Salesforce内のデータと表記ゆれを生じており、Eloquaにてリード育成すべきデータなのかをシステム上で判別できませんでした。また、リードデータに対してメール配信を行う際に、業種や売上高、従業員数などの属性情報がないため、細かいターゲティングメールの配信ができない状況でした」(湯浅氏)
そこで、データ統合ツールや入力支援ツールを導入。顧客データの入り口から「標準化(Normalize)」、「一元化(Integrate)」、「補正(Correct)」し、育成すべきデータのみをEloquaに自動で振り分けることが可能になった。また、「属性付与(Enhance)」することで、顧客別に最適なメール配信が可能となり、顧客へのリーチ力強化につながった。
「今まで表計算ソフトで行っていた約3時間にわたる3000件のデータ統合処理を削減しました。その結果、力を入れるべき分野へリソースの配分が可能になり、競争力の向上を実現しています」(湯浅氏)

何より大きいのが、リード獲得からナーチャリング、営業活動へとシームレスに有用なデータがつながることにより、MAの本来の力が発揮され、攻めのデジタルマーケティングができるようになったことである。
ダークデータがDXを阻害する
これら2社の事例により、表記ゆれや欠落したデータを入り口から整備・補完することが、DXを実現するうえで重要なことをご理解いただけたのではないか。しかし、これだけでは解決できないデータ特有の問題が存在すると湯浅氏は話す。

湯浅 将史氏
「最近ではデジタライゼーションが進み、データを蓄積し、社内共有する企業が多くなっています。ただし、ほとんどの企業では蓄積・共有されたデータを十分に活用しきれていないと考えています。とくに、利用されず放置されているダークデータの扱い方がポイントになります」(湯浅氏)
ダークデータとは古くなり、価値がなくなってしまい死蔵されているデータを指す。顧客データは時間が経過するごとに統廃合や事業所移転、倒産などで陳腐化し、ダークデータになりやすい。
また、ダークデータをそのままにすると、保存にかかるストレージのコストや、漏洩によるブランド力の低下リスクなどのマイナス要因にもつながってしまう。整備されないダークデータのままではDXは進まず、DXの阻害要因になっている。とはいえ、膨大なデータを整備するのには時間もコストも大きくかかる。
では、どのようにデータの品質劣化を回避して、DXにつなげていくべきだろうか。次回は、ダークデータや蓄積・共有を行った後のデータの品質劣化をどのように回避してDXにつなげていくかを紹介したい。