そもそもの統治手法や正統性を問われることなく、また制度的基盤も整わないままで、市場経済の荒波に突っ込んでいった。独裁政権の圧政下で多くの歪みや不満が暴動の形で顕在化し、何万人もが虐殺されても、国家としての体制がある限り国際社会は黙認しました。
──冷戦終結も大きく影響した。
東西の緩衝地としての地政学的重要性が消え、後ろ盾を失った政権の統治能力は低下して、“権力の真空”状態に陥る国が続出します。絶対的権力の重しが外れ、武装勢力が各地で蜂起する。冷戦後の戦う主体は、それまでの国家・正規軍から、民間傭兵部隊や軍閥、自警団、テロ組織、犯罪組織などへ変わった。集落や村を襲撃して住民を虐殺、物資を略奪する。鉱床地帯を制圧して鉱物資源を密輸し、国際市場から資金や武器を調達する。機能不全の政府は鎮圧がますます困難になり、その悪循環で紛争が長期化していきました。
無秩序状態のほうが「好都合」だった人々
──豊かな資源が逆に作用した?
道義的対立以上に、略奪可能な資源への欲望が膨張したともいえる。政府が公然と密輸に関わるような場合は、協力関係さえあった。紛争が長期化し無秩序状態に陥るほうが、武装勢力にとっても政府高官・軍人など既得権益者にとっても好都合だったかもしれない。この辺は公式な報告や統計があるわけでなく、あくまで推測ですが。
ただ明らかなのは、この間民衆は貧困と絶望に取り残され続けたということ。テロが吹き荒れる恐怖より、汚職に目をつぶっていたほうがましと黙すしかなかった。
──「開発」という言葉に潜む暴力性も指摘されていますね。
開発の名の下に外資による資源採掘や農地開発が行われ、他部門への波及効果はなく、特定の産業のみが肥大した経済構造が固定化される。その歪みが、暴動やテロリストの自己正当化、自国民同士が殺し合う内戦を誘発する。ただし重要なのは、一方的な支配と搾取ではなくて、アフリカ諸国側にも問題があったこと。指導者たちはなるべく多く資金を獲得しようと、言われるままに政策を寄せていく。つぎ込まれた投資が、最終的に国民に分配されることはない。
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