誤解されたスウェーデン「コロナ対策」の真実 「集団免疫戦略」ではなく、「持続可能性」を重視

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ストックホルムのストランドヴァーゲンから群島巡りのフェリーに乗ろうと行列する人々。7月27日撮影だが、マスクをしている人がほとんどいないのはノルディック諸国に共通だ(写真: AFP=時事)

スウェーデンにおける独自の新型コロナウイルス政策は、世界から注目されている。スウェーデンがロックダウン(封鎖)をしなかったことに対し、国外からは、国民の自主性を尊重するという倫理的な視点から評価する声があり、国民生活の面でも打撃は英国やユーロ圏よりも相対的に小さいのではないかとの見方もある。しかし、海外から発信されるコメントの多くは批判的なものである。

5月には米国のトランプ大統領が、スウェーデンの緩やかな対策は大きな代償を払うだろうと厳しく批判した。他にも「スウェーデンはいわゆる『集団免疫戦略』を採用している」とか、「経済を最優先した結果ロックダウンをせず死者が増えた」、といった報道が多い。しかし、これらはスウェーデンのコロナ対策の実態や背景を理解しているものとは言い難い。

「ロックダウンなし」が死者が増えた原因ではない

確かに、スウェーデンの新型コロナによる死者数をみると8月11日時点で5766人であり、死亡率は100万人あたり570人を超える。この比率は日本の8.3人との比較はもちろん、他の北欧諸国と比較しても高い水準にあり、これが批判の対象となっている。欧州各国との比較ではベルギー、英国、スペイン、イタリアなどに次ぐレベルである。

だが、死者が多かった背景としては、むしろ介護システムの問題が大きかったと考えられる。死者の9割は70歳以上であり、その5割が介護施設に居住していた。これら介護施設は市町村が管轄するもので、重度の要介護の高齢者が入っている。感染防止対策が不十分な環境下にあったパート勤務の介護者などが施設での介護を行っていたため、クラスターが発生したという構造的な問題があったのである。

1992年に「エーデル改革」といわれる医療と介護の機能分担の連携体制について改革が行われた後、高齢者の在宅介護政策が進められ、介護施設の管轄は県から市町村に移った。

この結果、介護施設における医療が手薄になったほか、民営化が進んだことからコスト削減が厳しく求められるようになった。また労働者を簡単に解雇できないこともあって、介護者の3割は安い時給で働くパートタイマーで、その多くが移民であり、感染しても収入を得たいために欠勤しなかったという(カロリンスカ大学病院医師・宮川絢子氏「現地在住医師の目からみたスウェーデンの新型コロナ対策」<NIRA総研>を参照いただきたい)。

こうした現状を踏まえれば、ロックダウンしなかったことが死者の数に直結しているとは、必ずしも言えない。そこで、スウェーデンがロックダウンを採らず、緩やかな国民の自主性に任せる対応を決めた背景には何があるのか、なぜ他国と異なる独自の政策を継続しているのかについて、より深く説明したい。

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