アスクルの試行に見た「物流のEV化」に待つ難題 10年後にCO2排出量ゼロを掲げるが課題は多い

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物流で進むEV導入の「理想と現実」とは?(写真:アスクル)

九州を中心に日本各地を襲った7月の豪雨。短時間に降り注ぎ災害をもたらす大雨は、地球温暖化の影響で今後も増えると予測される。温暖化を招く要因となるのが二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスだ。その排出量削減は、もはや国だけでなく企業が主体的になって取り組むべき課題となっている。

『週刊東洋経済』7月27日発売号は「脱炭素 待ったなし」を特集。気候変動問題を背景に環境対策強化へと舵を切った日本企業の姿も描いた。同様の取り組みは物流の領域でも進んでいる。

オフィス用品などの通販で知られるアスクルは今年1月、環境評価のNGO(非政府組織)として著名な英CDPに、気候変動に対する取り組みとその情報開示で特に優れた企業として選ばれた。最高評価の「気候変動Aリスト」の企業に選定されたのは、日本の EC 事業者で初のこととなる。

アスクルは「2030年までにCO2排出量ゼロ」という目標を掲げている。2019年度における同社のCO2直接排出量はおよそ3万5000トン。その多くを占めるのが物流施設の運営に伴う約2.5万トンと配送の際に車両から排出される約1万トンだ。

CO2削減の目標について、同社でCSR(企業の社会的責任)を担っている東俊一郎部長は、「岩田彰一郎前社長のトップダウンで目標は決まった。トップが責任を取れる期間中での達成を目指したため、2030年を期限としている」と振り返る。

後任の吉岡晃社長も「持続可能な社会の実現にどこまで貢献できるかが重要だ。今は取り組みを具体化する段階に入っており、積極的に施策を打っていく」と語り、CO2削減目標を重視する姿勢に変わりはない。

配送業務における削減策の柱がEV

物流施設からのCO2排出量は、消費電力の削減や再生可能エネルギーの活用などで削減する考えだ。一方、配送に関わる分は、自社配送拠点における電気自動車(EV)の導入が削減策の柱となる。

企業によるEV使用促進を目指す国際イニシアチブの「EV100」へ、アスクルは2017年11月に加盟した。EV100は2017年9月に発足されたので比較的早い段階での加盟となる。

加盟した企業は、直接管理車両(所有・リース)のEV化などを公約とすることが求められる。アスクルの場合、物流子会社であるASKUL LOGIST(アスクルロジスト)の保有する全車両を2030年までにEVに換えるとし、2016年からEVを導入し始めていた。

運転中に発生する振動や騒音が少ないEVは、配送ドライバーの負担も軽減できる。また思わぬ副次効果も得られたようだ。「EV導入をきっかけに、ESG(環境・社会・企業統治)の取り組みに対する社員の意識が高まった。現場では拠点における再生可能エネルギーの利用に関する議論も活発化している」(東部長)。

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