高橋泰教授が新型コロナをめぐる疑問に答える 暴露と感染の広がり方、PCR検査の問題を解説

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7月18日の東洋経済オンライン記事『新型コロナ、日本で重症化率・死亡率が低いワケ 高橋泰教授が「感染7段階モデル」で見える化』には大きな反響があった。そこで読者からいただいたいくつかの疑問・質問について高橋泰・国際医療福祉大学大学院教授に答えてもらった。前回の補足(2ページ目まで)と死者を多く出したダイヤモンド・プリンセスと武漢、都市部と地方の違い、PCR検査の限界と問題点などである。検査で無症状感染者を見つけ出して隔離するのではなく、重症化・死亡のリスクの高い人を守ることに政府は対策の重点を置くべき、というのが高橋教授の主張だ。

新型コロナは強い暴露力で「数打ちゃ当たる」戦略

――先生は、新型コロナウイルスについて、弱毒であり、日本人では暴露した人のうち98%が自然免疫で処理されるとしています。暴露と感染・増殖の違いを教えてください。

「暴露力」は人の体内に入り込むこと。新型コロナウイルスは「暴露力」が強い。体内への侵入に成功したウイルスはさらに身体の奥深くに進み、人の上気道部の細胞の表面にあるACE2受容体との結合を目指す。結合したら「感染」。感染に成功すると人の細胞はウイルスを取り込み細胞内で増殖したウイルスが、再度細胞外に放出される。しかし新型コロナは、インフルエンザと比べ増殖するウイルス数は少ない。つまり「増殖力」は弱いので「伝染力」も弱い。そして、人の細胞を刺激したり破壊したりする力である「毒性」もインフルエンザよりも弱い。

私の仮説の最も重要な点は「新型コロナに感染して細胞から排出されると、毒性も弱く増殖力も弱いので、当初は身体が自然免疫で対処可能な敵と判断し、98%程度は自然免疫で処理され、完治する」ということだ。マクロファージなど異物を食べる貪食細胞で構成される第1次防衛網である「自然免疫」で抑え込んでしまうので、獲得免疫はなかなか発動せず、抗体ができにくい。これに対し、インフルエンザの場合は毒性が強いので、第2次防衛網である「獲得免疫」が早期に発動して抗体ができる。

新型コロナは体外に排出されるウイルス量も少なく、感染した人から次の人にうつる「伝染力」が弱く、感染のチェーンが切れやすい。だから、実効再生産数があまり伸びない。 この弱点を補うためになるべく多くの人に暴露しようというのが、新型コロナの基本戦略で、強い暴露力による「数打ちゃ当たる」というものだ。

新型コロナのごく一部は、自然免疫の攻撃をかいくぐり、広く感染が拡大することがある。このような場合は、獲得免疫が出動し抗体で新型コロナを殲滅する。さらにそのうちわずかな率であるが、一部の人では「免疫機構の暴走」であるサイトカイン・ストームを引き起こして重症化し、死に至ることがある。高齢者や体力の弱っている人や高血圧、肥満の人はサイトカイン・ストームのリスクが高くなる。

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