三陽商会の社長が激白、「銀座ビル売却」の裏側 象徴的なビルだったが、現金確保を優先へ

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アパレルの苦境を象徴する取引だが、不動産業界にとっては好機と見ている(記者撮影)

不動産業界が注目していた物件が、ついに動いた。

アパレル大手の三陽商会は7月17日、東京・銀座の商業ビル「ギンザ・タイムレス・エイト」を売却すると発表した。現在ビルに出店しているブランドは8月末にて閉店し、引き渡し日である9月30日をもって退去する。

売却額は少なくとも、簿価(50億円)と売却益(67億円)を合わせた117億円以上になる。売却先は非開示だが、複数の関係者によれば、ジャスダック上場の不動産会社「レーサム」とみられる。買主について三陽商会とレーサム側に確認したが、ともにコメントを避けた。

虎の子の本社ビルは売らず

今回、東洋経済の取材に応じた三陽商会の大江伸治社長は、売却理由について「新型コロナウイルスの感染拡大による減収を受け、キャッシュを確保するために決断した」と話す。同社は2015年にライセンス契約が終了した英ブランド「バーバリー」の後継が育たず、前2020年2月期まで4期連続の最終赤字に沈んだ。

さらにコロナによる外出自粛の余波を受け、今2021年2月期の第1四半期(2021年3~5月期)は、臨時休業が響き純利益が45億円の赤字(前期実績は400万円の黒字)となった。業績不振に伴い手元資金も急速に減っており、5月末の現金及び預金は93億円と、2月末の129億円から36億円減少した。

各フロアでアパレルブランドを展開する旗艦店だったが、資金繰りを優先した(記者撮影)

4月14日に同社が公表した「再生プラン」においては、不測の事態に備え不動産などの資産売却により60億円を確保すると宣言。三陽商会は2018年にも南青山のオフィスビルを売却しており、残る不動産は本社ビル2棟とギンザ・タイムレス・エイトのみ。再生プラン公表後に社内で大江社長を座長にタスクフォースを設立し、金策について議論を重ねる中で、インバウンドの蒸発によって不振が続いていたギンザ・タイムレス・エイトの売却が持ち上がった。

同ビルは元々バーバリー銀座店が入居しており、ライセンス契約終了後「三陽銀座タワー」の名称で2015年9月に開業。三陽商会を代表するブランドを集積した「新生SANYOを体感できるタワー」と位置付けられた。

さらに直営店強化の方針から2019年9月にフルリニューアルを施し、「これからの三陽商会を象徴するショップ」として同社の旗艦店のような存在だった。そうしたビルを手放すことについては、手元資金の確保を急ぐ現実的な判断があった。

売却後も借り上げるリースバックや、売却の代わりに賃貸ビルとして保有することも検討していたという。だが、「リースバック時の賃料は安くない。賃貸不動産としての運用も考えたが、キャピタルゲインを選んだ。本業の黒字化は見えており、(売却で得た資金を活用して)攻めに転じる基盤を強化していきたい」と、大江社長は語る。

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