アメリカの中国系企業250社に上場廃止リスク トランプ政権が会計監査めぐる「覚書」破棄へ

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アメリカでは中国系企業の経営の透明性に対する懸念が膨らんでいる。写真は不正会計が発覚したラッキン・コーヒーのナスダック上場時のセレモニー(ナスダックのプレスリリースより)

7月14日、アメリカの株式市場に上場する約250社の中国系企業に巨大なリスクをもたらすニュースが報じられた。中国証券監督管理委員会 (証監会)と中国財政省がアメリカの上場企業の監査法人を監督する公開会社会計監査委員会(PCAOB)と2013年に結んだ「覚書」を、トランプ政権が一方的に破棄する方針だとロイター通信が伝えたのだ。

アメリカ上院は5月20日、アメリカに上場する外国企業がPCAOBの監督基準を3年連続で満たせなかった場合、上場を廃止すると定めた「外国企業説明責任法」を全会一致で可決した。同法が下院の採決とトランプ大統領の署名を経て成立し、さらに上述の覚書が破棄された場合、アメリカ市場からの中国系企業の締め出しがいよいよ現実味を帯びる。

「これは国家安全保障上の問題だ。アメリカの投資家がリスクにさらされ、アメリカ企業が不利な立場に置かれ、われわれの金融市場の優位性が損なわれる状況を許容し続けることはできない」。アメリカ国務省のキース・クラック次官は、覚書の破棄についてロイターにそうコメントした。

背景に米中証券監督当局の長年の確執

アメリカのいら立ちの背景には、中国系企業の会計監査をめぐる米中証券監督当局の見解の相違がある。アメリカは長年、中国系企業の監査に携わる中国本土の監査法人への立ち入り調査や、監査記録の原本の提出を要求し続けてきた。これに対して中国は、立ち入り調査は中国当局の監督下で行うことを求め、監査記録のなかで国家機密に触れるものは提出できないとの立場を譲らなかった。

そして、相違点を残した妥協案として結ばれたのが2013年の覚書だった。その取り決めに基づき、証監会はこれまでに中国系企業14社の監査記録の原本をアメリカ証券取引員会(SEC)とPCAOBに提供した。しかし最近の米中関係の悪化に加え、今年4月に発覚した瑞幸咖啡(ラッキン・コーヒー)の不正会計事件が、中国系企業の経営の透明性に対するアメリカの懸念を増幅させた。

本記事は「財新」の提供記事です

覚書の破棄は、PCAOBが中国のカウンターパートとの協力を放棄することを意味する。それはアメリカでの中国系企業の上場廃止に直結しかねない。6月に財新の取材に応じた証監会の易会満主席は、この問題に関して次のように語っていた。

「国境を超えた証券監督に関わる数多くの専門的な問題が、このところ過度に政治化されている。だが私は、現行の法律や規則の下でもアメリカとの協力は可能であり、見解の相違を解決できると考えている」

(財新記者:岳躍)
※原文の配信は7月14日

財新 Biz&Tech

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