急拡大するESG投資で日本が抱える最大の課題 白井教授が語るエンゲージメントの重要性

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梶山弘志・経済産業相は、旧式の石炭火力発電所を2030年度までに休廃止する方針を表明した(写真:ロイター)
ESG投資は近年、世界の資産運用において中心的テーマと言われるまでに急拡大した。ESG投資残高は欧米中心に30兆ドルを超えるとされ、日本でも2014年まではゼロに等しかったものが2018年には2.2兆ドルに急増している(国際組織のGSIA集計)。企業側から見たESG経営も含め、新型コロナ禍を経て注目度が一段と高まっている。
そこで、元日本銀行審議委員で国際金融を専門とする白井さゆり・慶応義塾大学教授にESG投資の現状と課題や、ESG投資の手法として欧州では主流のエンゲージメント(投資家と企業との建設的対話)について聞いた。
白井氏は、世界的な資産運用会社でESG投資やエンゲージメントで定評のある英フェデレイテッド・ハーミーズEOSの上級顧問として、日本の大手企業とのエンゲージメントを行っているほか、環境省、経済産業省、金融庁など関係省庁や東京証券取引所、国内外の組織・専門家などと政策議論も活発に行っている。

長期投資家がESGを中心テーマに

白井氏の話の前に、まずは基本的な説明をしておこう。ESG投資はEnvironment(環境)、Society(社会的責任)、Governance(企業統治)への取り組みを重視した投資であり、地球温暖化や人権問題などの長期的課題を解決していくうえで企業がいかにサステイナブル(持続可能)かが問われる。

こうした投資を実践するのは主に年金基金や保険会社など10年、20年といった長期の運用を基本とする機関投資家だ。その実務的な運用は通常、専門の運用会社(アセットマネジャー)に委託されることが多い。

エンゲージメントというのは、委託された運用会社が運用対象先の企業に対し、直接の対話や議決権行使などを通じ、経営の改善を働きかけることをいう。ESGはその中心的なテーマとなっている。

日本では2015年、上場企業が守るべき企業統治の指針であるコーポレートガバナンスコードが適用開始され、適切な情報開示や株主との対話などが基本原則に盛り込まれた。2018年の改訂によって、ESGに関する情報開示の必要性も追加され、来年さらに改訂が予定されている。

また、運用会社を含む機関投資家の行動指針を定めた日本版のスチュワードシップコードが2014年に策定され、受託者責任の方針公表や投資先企業の経営モニタリングなどが原則となった。こちらも2019年の再改訂によりESG要素を投資プロセスに組み込むことが明記された。

こうしたことを背景に、日本企業は欧米企業と同様、運用会社などからエンゲージメントを求められたら積極的に受け、説明責任を果たし、情報開示を改善することが要請されている。ESGの取り組みを説明するサステナビリティレポートや統合報告書を毎年発行する企業も増えている。

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