映画「パブリック」に見る社会と図書館の繋がり ホームレスたちの最後の避難所になっている

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それは彼らにとって平和的なデモのはずだった。だが、そこにシンシナティ市警、マスコミ、やじ馬が押し寄せ、図書館周辺は大きな騒動となる。さらにそこに次期市長選挙に出馬予定の検察官デイヴィス(クリスチャン・スレイター)も首を突っ込んできて、スチュアートを凶悪犯扱いにしてしまう始末。

そんな混迷を極める状況の中、最終手段として機動隊が強行突破を推し進めようとするが、対するスチュアートと70人のホームレスたちは驚きの行動に出る――。

俳優としても活躍するエミリオ・エステベスの監督作品

本作の監督・脚本・主演を務めるのは、映画『ブレックファスト・クラブ』『ヤングガン』などで知られる俳優のエミリオ・エステベス。1980年代はトム・クルーズらとともに「ブラット・パック」と呼ばれ、若手青春スターとして一世を風靡したエステベスだが、近年は監督としても活躍している。

大寒波の中、ホームレスが図書館を避難所として駆け込むことから物語は始まる ©EL CAMINO LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

これが7本目の監督作品で、本作では、アレック・ボールドウィン、クリスチャン・スレイター、ジェフリー・ライト、ジェナ・マローン、テイラー・シリングなど実力派キャストが集結。彼らが織りなすアンサンブルも見応えがある。

この作品のインスピレーションのもとになったのは、ソルトレイクシティ公立図書館でかつてアシスタントディレクターを務めていたチップ・ウォードが、2007年4月のロサンゼルス・タイムズに寄稿したエッセー。図書館について記されたこのエッセーには、世間から排除された人々にとって、図書館が事実上のシェルターとなっている現状が描かれている。彼らの大半は精神疾患を持っているというが、多くの人は彼らのことを見て見ぬふりをしている。

彼らの苦境は、社会のコミュニティーが分裂し、崩壊しているという事実を指し示しており、利用者の中にはそうした存在に不快感を示す人もいる。臭いについてのクレームもあるという。だが、臭いについての線引きも難しい。かつてニュージャージー州では、体臭を理由に追い出され、腹を立てた利用者が図書館を訴え、勝訴したケースがあったからだ。それ以来、公立図書館はその対処に慎重になっているのだという。

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