40歳料理人をクビにした社長の酷すぎる言い分 都内でも有数の飲食店激戦地で働いていた

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18年間働いた和食店を一方的に解雇されたユウスケさん。携帯には常連客から「営業再開を待っています」というメールが届くが、今も返事が書けずにいるという(筆者撮影)  
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

勤め先は「刺身が安くてうまい」と評判の店

「電車通勤の人はコロナ感染のリスクが高いから」

18年間働いた職場をクビになる理由としては、あまりに軽く感じた。ユウスケさん(仮名、40歳)の勤め先は都内の和食店。元妻の親の葬式に参列した日以外、1日も休まず厨房に立ったのに……。どうして俺が? ショックで言葉が出ないユウスケさんに対し、料理人でもある社長は「後は自分で仕事を探してくれないか」と言って追い打ちをかけた。

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店がのれんを張っていたのは、都内でも有数の飲食店激戦地。刺身が安くてうまいと評判の店で、芸能人やスポーツ選手もよく訪れた。ユウスケさんは焼き物と揚げ物を担当。カウンター越しに常連客と話すのは楽しかったという。

「リーマンショックのときもほとんど影響はありませんでした。東日本大震災のときもボトルも皿も、1枚も割れなかったんです」

恐慌や天災を乗り切ってきた店だったが、今回ばかりは無事では済まなかった。新型コロナウイルスの感染拡大が続く3月半ばごろから客足が鈍り始め、週末の予約がキャンセルされるようになったという。

緊急事態宣言が出される直前の4月初め、店はいったんのれんを下ろした。1カ月後、休業中の給料を渡すからと、従業員全員が店に呼ばれたが、まさかその場でクビを伝えられるとは思わなかったと、ユウスケさんは振り返る。

ユウスケさんによると、店の従業員はアルバイトの女性が2人と、正社員の男性が3人の合わせて5人。このうちアルバイトの女性2人とユウスケさんの3人が解雇された。

「まずバイトの2人が社長から『辞めてほしい』と言われて。(このうちの)1人は独身で生活がかかっていたみたいで『今辞めても働くところなんてないのに……』と言って困っていました。『かわいそうだな』と思ったけど、この後自分までクビになるなんて……」

結局、正社員男性3人のうちクビになったのはユウスケさん1人。ユウスケさんだけが電車通勤をしているからというのが、その理由だった。

「なんだそれ?と思いました。感染リスクと言うなら、お客さんからのリスクのほうがよほど高いですよね」

次ページ「解雇理由を書面にして送ってほしい」と頼んだ
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