ジブリ作品の「物語」はこうして作り上げられる 鈴木敏夫×石井朋彦が説く「ジブリの仕事」

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石井:(笑)、緻密さがね。お前には緻密さが足りないってよく言われていました。

鈴木:見た目をきれいにするのは得意なんですよ、石井って。でも中身はどうなんだろうって。それは性格なんだろうね。

石井:『思い出の修理工場』の中で、ズッキというキャラクターがずーっと部屋の片づけをしているんですけど、あれは僕が見ていた鈴木さんです(笑)。

「おはようございます。ピピさん」
ロノが、伝票の束をかかえて歩いてきました。
「おはようございます」
「作業完了ですね? どれどれ」
ロノはトレイをのぞきこむと、伝票と見くらべ、ほほえみました。
「うん……なかなかいいんじゃないでしょうか」
「ありがとうございます! ズッキさんに教えてもらった……」
「仕事の八割は、整理せいとん、ですね」
「はい!」
「ズッキさんの整理好きは人並み外れていますからね。人の机の上にあるものも勝手に整理してしまう。僕は、大事にしていたものを捨てられてしまったことがあります」
ロノは肩をすくめました。
「さあ、次がきますよ」
さっきよりもさらに大きな箱が運ばれてきました。
ピピは大きく息を吸いこむと、次の仕事にとりかかりました。
(『思い出の修理工場』P105より引用)

ジブリ流「ストーリーの作り方」

石井:文章を書くときに鈴木さんに教えていただいたのは「説明せずに、見たままを書け」ということでした。形容詞をいっぱい使ったり、あれこれ説明したりするのはいい文章じゃない。頭の中で1回映像化して、それを具体的に書け、と。

『思い出の修理工場』を書くときも、それまで小説を書いたことがなかったので、鈴木さんに言われたとおりに、見たまま覚えたことを具体的に描写しました。ジブリで見たことを、ファンタジーの世界に置き換えてみたんです。言いたいことを書くのではなく、そのまま映像として書く。読者には、そこから感じてもらう。物を書くってそういうことなんだなぁと、あらためて思いました。

鈴木:ある新人監督が映画を作るときに、「どうやって作ったらいいんですか」って聞かれたんです。僕がアドバイスしたのは、名シーンを10個作りな、ということ。あれこれ考える前に、まずは絵にしちゃいな、と。物語は、その間を埋めればいい。そうすると1本の映画になる。映画ってストーリーのことだと考えている人は多いんだけど、映像だから。

石井:宮崎さんも、イメージボードを先に描きますもんね。

鈴木:そうそう。映画は絵なのにね。言葉でいくら考えていてもわからないことは多い。

石井:『思い出の修理工場』の執筆中に、どうしてもうまくはまらなくて、編集者と何度もやりとりして書いた台詞に、鈴木さんをモデルにしたキャラクター・ズッキが「大切なのは記憶力だぞ」というものがあるんです。

ストーリー作りにおいても、それがすべてだなと。覚えていること、忘れちゃったけどちゃんと覚えていること、思い出す努力、そして、思い出したあとに生まれるもの。そういうのが大事だなっていう気がします。

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