マーケットの新常識「適応的市場仮説」の衝撃 今こそ読むべき「オタクで商売人」の最新研究

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マーケットの新常識「適応的市場仮説」とは?(写真:MangoStar_Studio/iStock)
コロナ危機で私たちの働き方は変わった。多くの職種では、必ずしも毎日出社する必要がないことがわかり、仮に感染者数がゼロになったとしても、新しい働き方が導入されるだろう。
危機によるそうした「適応」は人間や生物だけに見られるのではない。金融市場も、環境変化に「適応」する。そうしたマーケットの「適応」を分析した研究の集大成、アンドリュー・ロー著『Adaptive Markets 適応的市場仮説』が刊行された。本書の読みどころを、運用会社でリスク管理などに従事してきた訳者の望月衛氏が解説する。

ファイナンスは凡人のための道具である

まずは自己紹介。キャリアのけっこう初期から、ぼくは資産運用会社で働いている。運用会社というのは、少なくともぼくの知っている限り、研究や勉強を重んじる職場で、とくに狭くも深い専門分野を持ち、何を考えるにもその分野に引き直して考える人がリスペクトされる。たとえて言うなら「オタクがよ」というのがいつも最悪の侮辱とは限らない、資産運用とはそういう生業である。

『Adaptive Markets 適応的市場仮説』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

ぼくはというと、たかだか院卒それもBS(chool)なんで、専門分野なんて呼べるほどのものはなく、代わりに、オタな連中とも堅気の方々とも会話ぐらいはギリ成立させられないかを考えるようになった。その頃の直接の仕事はリスク・マネジメントambulance chaser派である。運用会社でのリスク管理は相場に関わる仕事だけれども、相場を当てなくてもいい。

むしろ、市場の挙動はどんなで、それぞれの局面ではどうすればリスクが抑えられるか、みたいなことのほうを考える。そして自分の考えを、人様のお金を預かるオタな連中にも、彼らを束ねるなんて同情を禁じ得ない仕事をしょいこんだボスの皆さんにもわかる形で語ろうとする。その土台になるのが、整理整頓されていて数学でも日常言語でも展開できる、アカデミックなファイナンスだ。

学校で面白がって勉強してたこともあり、ぼくは仕事でファイナンスの論文だの専門書だのを読むようになった。端的に言うなら、ビジネス系の学問とは、バフェットでなくてもダリオでなくてもお金のことを考えられる道具であり、凡人かつド素人なぼくらのためにあるものなのだ。

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