ボビー・オロゴンの妻が事件に放った重い言葉

自分が「弱い者いじめされてきた」と語った意味

暴行の容疑で逮捕されたボビー・オロゴン容疑者と彼の妻の話には、なぜ食い違いが生じたのだろうか(写真:Pasya/アフロ)

ボビー・オロゴン容疑者が、逮捕された。自宅で妻の顔を叩くという暴行容疑のようだ。ボビー容疑者と妻の話には開きはあるものの、大きなケガは負わせていないとのことだった。まだ詳細がわからないが、これを夫婦喧嘩のように扱う報道に対し、私はやや違和感を覚えた。

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これは対等な関係での諍いなのか。家族という閉ざされた空間において、夫婦という親密な関係の中で、長い間、逃げ場のない攻撃にさらされていたのだとしたら。それは相当深刻な問題なのではないかと思う。

例えば、アメリカでは、1970年代から1980年代にかけて、バタードウーマン症候群という概念が広まった。パートナーから、長年にわたって精神的・物理的に虐げられ続けた女性について、客観的な視点をひとまず置いておいて、彼女の目から物事を捉え直そうという考えだ。

例えば、夫がちょっと体を動かしただけで、彼女はびくっと震えるかもしれない。彼が眠っている間すら、彼女は怯えているかもしれない。はた目には「そんなこと」に思えることでも、長年の「経験」に裏づけられて、彼女の恐怖のスイッチが作動することもあるのだと。

ボビー容疑者が現行犯逮捕された後に、自宅から出てきた妻は「ひと言だけ話をさせてもらっていいでしょうか」と切り出して、「長年、夫からはさまざまなDVを受けてきました。それは家庭内という狭い空間でまるで弱い者いじめをされているような状態です」と語ったという。

ボビー容疑者と妻の話に開きがあるとの報道は、どちらも主観的には事実なのかもしれない。ボビー容疑者には、ささいなことでも、妻にとっては耐え難い恐怖になることも、十分にありうる。

で、私は、そのとき思った。妻の語ることが事実だとして、自分が「弱い者いじめ」をされてきたという認識に至り、それを外に向けて言えるというのは、なかなかすごいことだろうと。

1「弱い者いじめ」をされる側の視点

私は角田光代さんの小説がとても好きである。なかでも、恋人から一方的に別れを突きつけられて、留学から帰って来た数年前の私は、『私のなかの彼女』(新潮社、2016年)に目を開かされた。

主人公の和歌は、栃木から上京してきた大学で出会った仙太郎と付き合っている。仙太郎はイラストレーターで、まわりとは少し違ったセンスありげな作品でバブル期にマスコミの寵児となっている。「なにも知らない」和歌にとって、仙太郎はキラキラした世界を垣間見せてくれる人。仙太郎との結婚に憧れる和歌は、仙太郎からはのらりくらりとかわされている。

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