倉庫勤務「今も休めない」非正規50歳の長い憂鬱

90分かけて電車通勤、マスクは3日間使い回し

生活保護制度のことは知っていたが、両親に問い合わせをされるのが嫌で申請しなかったという。ネットで障害年金のことを知り、2年前から受給できるようになった。「障害年金がなかったら、死んでいたと思います」。

両親への問い合わせとは、生活保護申請者の家族や親族に対し、養う意思や能力があるかを確認する扶養照会のことだ。現在、行政の現場では原則行われている。ただ法的な強制力はないし、生活保護利用の要件でもない。

一連の生活保護バッシングの中で「扶養義務の強化」も叫ばれ、ケースワーカーたちもそれに沿った運用をしているわけだが、義務化などしたら、ただでさえ異様に低い捕捉率(生活保護を利用する資格のある人のうち実際に利用している人)を押し下げるだけなのではないか。実際、タカノリさんは扶養照会がネックになって申請を思いとどまった。

タカノリさんは労災を訴えず、障害年金のことも命の危険を覚えるほどに追い詰められるまで知らなかった。貧困の現場を取材していると、自らの権利行使に消極的で、利用できる福祉制度についても知らなかったという人が少なくない。悪いのは、労働安全衛生上の義務を果たさない会社であり、障害年金などの福祉制度について十分な周知をしない医療機関や行政なのだが、当事者ももう少し自分の身は自分で守るべきなのではないか。

私がそう言うと、タカノリさんは「言われてみると、そうかもしれませんね」という。まあ、後から“正論”を言われても、そうですねと答えるしかないかと、心の中で思う。

恋愛は実らなかったけれど…

タカノリさんには昨夏ごろから、半年ほど付き合った女性がいた。同世代で離婚経験のあるシングルマザー。ただ、女性が過去に付き合った男性のことがどうしても気になってしまい、結局、後味の悪い別れ方をしてしまったという。

恋愛は実らなかったけれど、半年前に初めて障害者雇用枠で就労、現在の倉庫で働き始めた。手取りは月11万ほど。障害年金と合わせると月20万円を超えるが、うつ症状が改善傾向にあるので、近く支給停止か減額になるだろうという。

私が、今自分が貧困状態にあることは自己責任だと思いますか、と尋ねると、タカノリさんはそれまでと同じようにしばらく考えた後、ゆっくりと話し始めた。

「僕の人生を振り返って自己責任と批判されるようなことはほとんどないと思います。むしろ何のとりえもない、能力もない、こんなボロボロのスペックでよくここまで頑張ってきたと思います。

もう50歳です。結婚もできなかったし、お金もためることができなかったし。終わってると思っているので、不満もない。死ねるわけではないので、生きている。ただそれだけです」

今日もタカノリさんはJRと地下鉄を乗り継いで出勤する。最近は外出自粛や在宅勤務をする人による通販の利用が増えた。普段のノルマ以上に速く、多くの商品の処理をしなければ。半年後の契約更新のために。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
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