倉庫勤務「今も休めない」非正規50歳の長い憂鬱

90分かけて電車通勤、マスクは3日間使い回し

「落ち着きがないと、しょっちゅう怒られていました。今だったら、発達障害かもと気づいてもらえたと思うのですが、当時はそんな言葉もなかったですから。ただ不良だとか、友達を傷つけたとか、そういうことはないんです。あそこまで怒られることだったのかなと思います。勉強も運動もできなかったから、できのよい姉とよく比べられました。親だけのせいにするわけではありませんが、今の僕に自己肯定感がまったくないのは、生育環境も関係していると思います」

その後、大学に進んだものの、ある日唐突に「みんなに笑われているような気がして、人前に出るのか怖くなった」。授業はもちろん外出もままならず、1年あまりで退学。一時はひきこもり状態になりかけたものの、いくつかの会社でアルバイトや正社員などとして働きつつ、20代半ばで、折り合いの悪い両親のもとを離れて独り暮らしを始めた。

「体育会系の上司とうまくいかなかったり、飲み会に自分だけ誘われなかったり、部下の派遣社員からバカにされたり」など対人関係につまずいて長続きしない職場もあったが、中には正社員として15年近く働いた会社もあった。

怪我をしても「労災」にはならなかった

15年近く正社員として働いたのは製造業の工場勤務。三交替で、夜勤もあったことから年収は500万円ほどあった。ただ、労働環境は劣悪。効率優先で機械の安全装置のセンサーが切られていたことが原因で、タカノリさんは左手のひらに大きなやけどを負った。また、自身の不注意で機械に指を挟まれ、中指の先端がちぎれかけたこともあった。

ほかにも怪我をした同僚はいたが、いずれも労災にはならなかった。というか、本人たちが訴えなかったのだ。「工場内の壁には『無災害〇日』の看板が掲げられていました。この“記録”を途切れさせるのは申し訳ないと思って……」とタカノリさんは言う。

夜勤続きによる疲れなどが原因で40代前半でうつ病を発症、会社を辞めた。その数年後、ADHDと診断された。「ネットで読んだ発達障害の特徴が、自分に当てはまると思って病院に行きました。周りとコミュニケーションが取れないとか、落ち着きがないとか――。実は自分の家に帰るのに、道に迷うこともよくあったんです。今思うと、工場で怪我をしたのもADHDのせいだったのかなと思います」。

取材で話を聞く限り、タカノリさんは質問には的確に答えてくれたし、小説を読むことが好きというだけあって表現も豊かだった。ただ、ほかの人に比べて答えが返ってくるまでに時間がかかることはあったかもしれない。スピードや効率が求められる社会では、タカノリさんのような特性はコミュニケーション能力に難ありとみなされてしまうのだろう。

タカノリさんによると、工場勤務を辞めてからの数年間が最も大変な時期だった。うつ症状がひどく仕事ができず、貯金は減る一方。家賃約7万円の家から、同2万円台のトイレ共同、風呂なしのアパートに引っ越した。インスタントラーメンが主食となり、体重は10キロ以上減った。クレジットカードによるキャッシングは60万円に上った。

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