倉庫勤務「今も休めない」非正規50歳の長い憂鬱

90分かけて電車通勤、マスクは3日間使い回し

一方で退勤時は1つの出口に人が集中。ソーシャルディスタンスを取って並ぶよう指示されるので20~30メートルの行列ができるという。その行列を監視する正社員の管理者が時々「そこ! ちゃんと距離を取ってください」と注意する。「2回注意されると、出勤停止になると言われています」とタカノリさん。

マスクは干して3日は使い回す。倉庫内はそれなりに密集状態だが、マスクは原則会社からは支給されない(写真:タカノリさん提供)

以前は倉庫内の机に準備されたマスクを自由に取ることができたが、マスク不足が深刻になるにつれ正社員による手渡しとなり、最近は自前で用意できないと申告しないと、もらえなくなった。「もらいづらい雰囲気。僕は自分で買っています。でも、もう残り20枚くらいかな……」。今は一度使ったマスクを干して、3日間ほど使い回している。

「毎日、得体のしれない恐怖を感じながら、片道90分かけて電車通勤しています。会社はできる限りの対策を取ってくれてはいますが、感染リスクはゼロじゃない」

新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、「Stay Home」と言われても、それがかなわない人たちがいる。食品加工やゴミ収集、スーパーのレジ、倉庫内作業、ビル警備といった仕事は在宅ではできない。そして、これらの現場を支える労働者の大半は非正規雇用である。先日、コールセンターのオペレーターの職場が3密状態にあるという話を取材したが、オペレーターの9割は派遣、契約、アルバイトといった非正規労働者だ。

公務員や医療従事者の一部が過重労働を余儀なくされているのは知っているけれど、彼らの安定した雇用や賃金水準に、非正規労働者のそれは遠く及ばない。同じく必要不可欠な仕事をしているのに、生活保護水準と変わらない月収の人もいるし、1カ月、3カ月といった「超細切れ雇用」を繰り返す人も少なくない。

雇用による「リスク格差」という、最も醜悪な差別

非正規労働の収入で家計を支える人もおり、休むに休めないという人もいる。雇い止めの不安があるから「職場の3密状態を改善してほしい」「危険手当てが欲しい」という声も上げづらい。市民の外出自粛や会社員の在宅勤務は、感染リスクに怯えながら黙々と働く低賃金、不安定雇用の労働者なしには成立しない。

「多様な働き方」という美名の下、非正規労働者を増やし続けた結果がこのありさまだ。コロナ禍が雇用による「リスク格差」という、最も醜悪な差別を浮かび上がらせている。

話をタカノリさんに戻す。

生まれも育ちも大阪。両親はアパレル関係の小さな会社を営んでいた。小学生のころは授業中に教室内を歩き回ったり、友達と一緒に空き家に忍び込むなどのいたずらをしては、両親からこっぴどく叱られた。中学生になり、父親からガラスの灰皿で頭を殴られて大量に出血したときのことは、今もトラウマになっているという。

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