「閉塞の中のアイデア」こそが「市場を創る」理由 創造へのヒントは「他者への優しさ」にある

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私たちはこの閉塞感の中、これからのビジネスのヒントをどう探ればよいのでしょうか(写真:kohei_hara/iStock)
新型コロナウイルスが波及し、私たちは外出を控え、この1カ月でテレワークが一気に普及してきている。今後も予断は許さないが、この非常事態に対応する中で、私たちはこれからのビジネスへのヒントをどう探ればよいのか、そして、日本の生活習慣からできることは何だろうか。
中小・ベンチャー企業への豊富な取材から、新製品開発・市場開拓のありかたを解き明かした『新しい市場のつくりかた』は、商店街の店主からグローバル企業のCEOまで、きわめて幅広い層に愛読されている異色の経営書である。今回は、その著者である経営学者の三宅秀道氏が、「文化開発」という視点からのイノベーションへの途を論じる。

「マスク着用」から見える新たな文化開発

この3月中旬、知り合いの生物学の先生から聞いた。

『新しい市場のつくりかた』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

「僕は布マスクを洗っては、何度も使い回していますよ。キッチンのオーブンで加熱消毒するとカラッカラのホッカホカになります」

「食べ物を調理するオーブンでですか。布が燃えたりしないのですか?」

「温度と時間を調節すれば大丈夫です。ゴムの弾力性はちょっと失われますが」

「これは暮らしのアイデアですね。さすが理系!」

「それで布マスクをして仕事に出かけると、もう今、町中で見かける人のかなり多くがマスクをしていますよね。もしすでに自分がどこかでコロナに感染していて潜伏期だったりしたら、その自分が喋るときに飛ぶ唾を遮って、相手に感染させる可能性を減らせる効果は期待できますから。だから、これから当分、マスク着用は当たり前になるんじゃないですか」

「そうなるでしょうね。今ドラッグストアでは使い捨てマスクはめったにないですが、布マスクにせよ何かマスクをつけてないと、相手に感染させちゃうかもしれない。それを防ぐたしなみとしての意味が意識されてきました」

「それで、これはまさに三宅さんが研究してきた、新しい文化の開発ケースじゃないですか。水泳帽をかぶる文化が普及して、プールで水泳帽を被っていないと不潔に感じるくらい、日本人の清潔感の要求水準が上がったというあの話と同じ」

という、やり取りのきっかけになったのは、その先生によると、大変恐れ多いことであるが、拙著『新しい市場のつくりかた』のようである。2012年に刊行した同書では、文化開発という視点から市場を創造する手法を提案した。

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