日本は過去「海外発の感染症」にどう対応したか

人類は未知なる病と繰り返し戦い続けてきた

「米艦ミシシッピー号が清国から日本にコレラを持ち込んだ。一八二二年以来、日本ではこの恐るべき疾病についてはまったく聞くところがなかったが、今回はたくさんの犠牲者が出た。市民はこのような病気に見舞われてまったく意気消沈した。彼らは、この原因は日本を外国に開放したからだといって、市民のわれわれ外国人に対する考えは変わり、ときには、はなはだわれわれを敵視するようにさえなった」(P188)

新型コロナウィルスが流行する現代とあえて結びつける必要もないが、まるで欧米でアジア人だとわかると差別されるかのようだ。

海外から病がやってきて、その次に、憎悪を海外にむける。それは、ずっと昔から繰り返されてきた。

ペストと日本、私たちは過去から何を学ぶか

なお、私は前回、カミュの『ペスト』を取り上げ(「予言に満ちた小説「ペスト」が示す伝染病の終焉」2020年4月2日配信)、現代との類似性を比較した原稿を書いた。そのペストが日本に“来日”したのは20世紀になる直前だった。カミュの小説と同じく大量の鼠が死んでいるのが発見された。なお、当時、ペストを運んできた患者は、香港から横浜港に入港した中国人だった。

その後、日本政府は厳格な水際対策を港で実施する。しかし、日本での感染拡大を防ぐことはできなかった。多くの医療関係者が喪われた。1900年は奇しくもネズミ年にあたり、そのときに行政は鼠を買う作戦に出た。市民が鼠を買って感染源を防ごうとしたのだ。

このペストも、絶対的な解決策はないまま、数年後にピークを迎え、そして収束・終息していく。本書には未知なる病と繰り返し闘わざるを得なかった人類の歴史が書かれるとともに、変わらない人間性や、人間の哀しみも感じさせてくれる。現代、とくに新型コロナウィルスの流行するいま、本書を読む意味は大きい。

ところで、最後に私的なことを書いておきたい。

祥雲寺にある鼠塚(撮影:坂口孝則)

東京の地下鉄・広尾駅から10分ほど歩いたところに祥雲寺がある。ここでは、先に書いたペスト流行時に買い上げた鼠(ねずみ)を供養する、「鼠塚」がある。

この写真を撮ったころは、2020年4月の上旬で、日本全体でふたたび新型コロナウィルスへの感染防止のため緊張感が高まっていたタイミングだった。

取材を受ける仕事がなくなった平日の昼、がらんとする祥雲寺に行ってみた。まわりにはかすかに、草刈りの音が聞こえるだけだった。

私は息子と、長い散歩に来ていて、「日本中、世界中が大変なことになっちゃったね」とつぶやいた。鼠塚を見に来た人など誰もいない。たぶん、周囲の住民も、これが何を意味するか知らないかもしれない。

鼠塚の前に立つ地蔵(撮影:坂口孝則)

鼠塚を見ると、ふいに胸を衝かれた。その衝動がいったいなんだったのかはわからない。ただ、鼠塚の前には地蔵が立っていて、何かの哀しみを封印したような顔をしていた。過去の人たちの苦悩や葛藤、そして、未知なるものとの格闘する努力。現代の人たちは忘れようとも、たしかにそれらはあったのだ、と。

すると静かに動けなくなった私を見て、息子が小さく「帰ろう」と言った。

私たちは過去から何を学べるだろうか。

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