予言に満ちた小説「ペスト」が示す伝染病の終焉

コロナに翻弄される我々の今を映すようだ

この小説には医療崩壊に至るさまも書かれているが、そこはあえて省略し、私は人間の心理的な記述に注目したい。小説では、舞台の街が閉鎖される。家族や愛する者たちとの別離。文通もできない状態。その環境は行政に向くことになる。

彼らの最初の反応は、たとえば、施政当局に罪を着せることであった

そして、日々のようにペストによる死者数が発表されるようになったが、

市中で誰一人、ふだんのときには毎週何名ぐらいの人が死んでいるものなのか、知っているものはなかった

さらに、事態の深刻さに人々が気づいたあとのエピソードも興味深い。

あるカフェが「純良な酒は黴菌を殺す」というビラを掲げたので、アルコールは伝染病を予防するという、そうでなくても公衆にとって自然な考え方が、一般の意見のなかで強まってきた
また別のところでは、ハッカのドロップが薬屋から姿を消してしまったが、それは多くの人々が、不測の感染を予防するために、それをしゃぶるようになったからである

これは2020年の出来事だろうか。

また、このような記述があるのには、驚かざるをえない。

ある朝1人の男がペストの兆候を示し、そして病の錯乱状態のなかで戸外へとび出し、いきなり出会った1人の女にとびかかり、おれはペストにかかったとわめきながらその女を抱きしめた

これは2020年の出来事だろうか。

また、現在では、新型コロナウィルスのPCR検査による。偽陰性(陰性ではないのに陰性とされること)や偽陽性(陽性ではないのに陽性とされること)の問題がある。検査を抑えたい医療関係者。しかし、検査をしてほしい、という一般人。この小説にも、医療従事者と一般人が見解で対立するシーンがある。一般人が街を抜け出し恋人に会いたいと懇願する箇所だ。

「証明書をひとつ書いていただけないかどうか(中略)、僕が問題の病気にかかっていないことを確認するという意味での証明書なんですがね。」(中略)「僕はその証明書を書いてあげることはできません。(中略)あなたが僕の診療室を出た瞬間から県庁に入る瞬間までの間に病毒に感染することがないとは、僕には保証できないからです(中略)。この町にはあなたのようなケースのものが何千人といるんですよ。しかしその人たちを出してやるわけにはいかないんです」

人間はずっと変わっていないのかもしれない

ペストについて、なすすべもなくなった人々。そこで宗教家が、信者にむかって説教をするのだが、このくだりも大変に人間の変わらぬ何かを見せてくれるようだ。

「今日、ペストがあなたがたにかかわりをもつようになったとすれば、それはすなわち反省すべき時が来たのであります。心正しき者はそれを恐れることはありえません。(中略)あなたがたは今や罪の何ものたるかを知るのであります。(中略)皆さんを苦しめているこの災禍そのものが、皆さんを高め、道を示してくれるのであります」
「われわれは神を憎むか、あるいは愛するか、選ばねばならぬからである。そして、何びとが、神を憎むことをあえて選びうるであろうか?」
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