予言に満ちた小説「ペスト」が示す伝染病の終焉

コロナに翻弄される我々の今を映すようだ

人々を震撼させた伝染病の歴史からいったい何が学べるか(写真:spawns/iStock)

伝染病に翻弄される人々を描く『ペスト』

新型コロナウィルスが世界各地に広がり、深刻な影響を及ぼしている。人間はウィルス感染症とつねに闘ってきた。今回も、どれだけの犠牲が払われるかはわからないものの、いつかは終息するはずだ。しかし、終息といっても、その渦中にいる私たちにとっては、その「いつか」こそが重要なのに、わからない。だからこそ未来が見えなくなり、さらに、恐懼(きょうく)するしかない。

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ところで、現在、全世界で自宅待機が命じられるなか、出版社では電子書籍が好調だという。人々は、家にいて時間を持て余すしかなく、そうすると、映画か読書が注目される。そこで、1つ紹介したい本がある。

それは『異邦人』でも有名なアルベート・カミュの『ペスト』だ。不条理の哲学で有名なカミュの作品は、いまだに輝きが衰えることはないが、そのなかでも特に『ペスト』は、新型コロナウィルス拡大の現在においていろいろな示唆に富んでいる。カミュという偉大なる作家が、ペストという伝染病をモチーフに、それに翻弄される人々の心理や変化、人間性というものに至るまでを予言した作品と映るからだ。

官僚たちの初期反応は2020年と同じ

この作品はアルジェリアの要港で起きる物語だ。平凡な街に変化が訪れるのは、ある医師が死んだ鼠(ねずみ)に気づくところから始まる。そして、その鼠の死骸は街のいたるところで発見され、異常なほどに膨れ上がっていく。行政は、幾百もの死骸を焼却するが、その終わりがない。

そのうち、医師のもとには、おかしな症状を見せる患者が急増していく。高熱で頸部のリンパ腺が腫脹し、脇腹に斑点ができ、もがき苦しむ患者たちだ。そして、彼らは、次々と死亡していく。ペストが街を蝕もうとしていた。

天災というものは、事実、ざらにあることであるが、しかし、そいつがこっちの頭上に降りかかってきたときは、容易に天災とは信じられない。この世には、戦争と同じくらいの数のペストがあった。しかも、ペストや戦争がやってきたとき、人々はいつも同じくらい無用意な状態にあった

カミュの描く官僚たちの、初期段階での反応が興味深い。

「いかにも、市民が不安になっていることは事実だ」と(中略)「それに、おしゃべりってやつが万事大袈裟にしちまうんでね。知事はこういわれたよ――『まあ、早いとこすますとしましょうや。ただし目立たないようにね』って。もっとも、知事は結局空騒ぎだと確信しておられるんだがね」
次ページ錯乱した患者が街に飛び出すシーン
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