がんになった父が6歳の娘に遺す「最後の仕事」 「5年生存率2.9%」を生き抜く

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5年前にステージ4のがんと診断された西口洋平さん。その生き方とは?(写真は娘さんと西口さん。写真:西口さん提供)
国立がん研究センターの統計によると、2016年にがんと診断された約100万人中、15歳から64歳の就労世代は約26万人。全体の約3割だ。
だが、治療しながら働く人の声を聞く機会は少ない。仕事や生活上でどんな悩みがあるのか。子どもがいるがん当事者のコミュニティーサイト「キャンサーペアレンツ(以下、CP)」の協力を得て取材した。
今回は、CP代表理事の西口洋平さん(40)を取り上げる。西口さんは35歳でステージ4のがんを発症した際、「自分と同じように子どもがいる人は、仕事や子育て、お金の問題にどう対処しているんだろうか?」と疑問に思い、悩みや必要な情報を共有し合うSNSを、2016年4月に立ち上げた。
会員は4年間で3500人に達し、活動はがんに関する絵本の出版や小中高校などへの出前授業、企業や大学との協働による調査、研究など多岐にわたる。今年2月のCPのイベントを軸に、西口さんが娘のために選んだ「最後の仕事」の全貌を紹介する。

「行動を起こすことで気持ちが前向きになる」

「絶賛治療中です」

私と西口さんとの出会いは約2年前の、彼のこの一言が原点。ステージ4のがん当事者と会うのは初めてだった。私の「ステージ4の人」のイメージと、身長175㎝で体重73kgの坊主頭で、骨太な体格の西口さんとのギャップはかなり大きかった。 

その落差を率直に伝えると彼はニヤリと笑って、「絶賛治療中です」と言い、私は失礼ながら笑ってしまった。「絶賛」とはこの上なく褒めること。だから「絶賛発売中」とは言っても、ステージ4の人自身が「絶賛治療中」とは普通言わないはずだからだ。私は想定外の表現に戸惑った。言い訳がましくて恐縮だが、その瞬間、自分の弱点さえも笑いに変えずにはいられない、同じ大阪生まれの血を感じた部分もある。

西口さんによる「ステージ4のがん」の説明は明快だった。

「がん医療が進歩した今、もう『ステージ4=末期がん』ではないんです。僕の場合、最初に胆管にできたがん以外に、別の部位に遠隔転移したがんもあり、切除手術ができない部分がある。これが『ステージ4』。ステージ3よりも4のほうが、がんが進行していて、厳しい状況なのは事実ですが、ステージ2や3の人より早く死ぬ、というわけではないんですよ」

抗がん剤が効いてがんが小さくなったり、どちらかのがんが消えたりすれば、手術で切除できることもある。また、西口さんが告知された「胆管がん」の胆管とは、肝臓で作られた胆汁(脂肪の消化を助ける消化液)が胆のうで濃縮されて蓄えられ、十二指腸へ分泌される際に通る器官のこと。

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