「関電再生」には刑事責任の追及が不可欠だ 郷原弁護士に聞く、「金品授受」報告書の核心

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3月14日、記者会見で頭を下げる関西電力の岩根茂樹前社長(左から2人目)、森本孝新社長(同3人目)ら(写真:時事)
関西電力の第三者委員会は3月14日、原子力発電事業を舞台にした金品受領問題に関する報告書を公表した。
同報告書によれば、原発が立地する福井県高浜町の元助役が、関電の経営トップや原子力事業本部を中心とした同社幹部ら75人に、総額約3億6000万円もの金品を30年以上にわたって提供してきた。一方、元助役が関係している企業が原発工事を受注できるように関電が随意契約などの便宜を図っていた実態が明らかになった。
そのうえで報告書は、関電の幹部と元助役が不正行為に基づく「共犯関係」にあったと断じた。関電では3月14日付で岩根茂樹氏が社長職を辞任し、新社長に就任した森本孝氏のもとで経営刷新に取り組む。しかし、「機能不全」(第三者委報告書)とされたコーポレートガバナンスの立て直しは容易ではない。
企業のガバナンスやコンプライアンスに詳しい元検事の郷原信郎弁護士に、電力業界を揺るがす不正の実態解明の意義と企業経営の立て直しの課題について聞いた。

贈収賄の立証は十分可能だ

──第三者委員会の報告書は、本文だけで200ページに及びます。一読してどのような感想をお持ちになりましたか。

関電の社内で行われてきた不正行為のおびただしさ、その生々しさに驚いた。電力という公益性の高い事業を営む企業において、こんなにもひどいことが行われていたのかと、委員長を務めた但木敬一氏(元検事総長)も唖然としたのではないか。

──『週刊東洋経済』のインタビューで郷原さんは、第三者委への期待を表明していました。報告書は期待に応えるものでしたか。

事実関係の解明については、おおむね期待どおりものものだったと言える。関電社内のメールサーバーなどに格納されている電子データを対象としたデジタル・フォレンジック調査が、不正の解明に際して成果を上げた。不正の原因分析もしっかりしている。

関電が実施した社内調査報告書とは、質の高さにおいてまったくレベルが異なる。

──他方、但木氏は刑事事件化は困難だとの認識を示しています。金品の授受と個別の工事の受注のタイミングが一致していないことが多く、贈収賄の構成要件とされる「不正の請託」の立証が困難であることを理由に挙げています。

個別の工事との関係うんぬんということで収賄罪が成立しないという但木委員長の説明はかなり苦しい。金品の提供が全体として工事発注の見返りであることを認定しているのであるから、請託がないとは言えないだろう。

理由もなく随意契約の発注をしたり、事前に発注情報を提供していることが不適切であることは報告書も認めているのだから、不正な請託と認める余地は十分にある。

工事業者から直接渡されてきたケースもあるのだから、彼らを取り調べることができる。贈賄側の森山栄治元助役が死亡していることも決定的な支障にはならないのではないか。今回、第三者委が解明した事実だけでも、立証は十分に可能だ。

また、競争入札であれば価格が低下しているところを、あえて随意契約で発注したことで会社に損害が生じたと言えるし、見返りとしての役員への金品の提供があったのだから、形式上は「自己図利目的」も認める余地がある特別背任の立件も不可能ではない。

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