トイレットペーパーに殺到する群集が厄介な訳

非常事態は自分こそが正しいと思ってしまう

今回のトイレットペーパー・パニックでは、「自分だけトイレットペーパーを手に入れられないのではないか」という「私的な不安」の感情と、「何としてもトイレットペーパーを買うことがゴールだ!」という強烈な競争心に目をくらまされてしまい、私的な感情に終始して、意識が公的な協力へと向かわないままの「群衆」が生まれたように見える。マナーもなにもなく、店員に詰め寄ったり、開店とともに自ら段ボールをむしって奪い合うような光景もあったらしい。

小さな「群衆」が生まれ始めると厄介

パニックの発端は「品薄になる」というデマにだまされて私的な不安をあおられ、一目散に「買う」というゴールに向かって走り出した人々からスタートしているのだが、デマを否定する報道が出ても一向に収まらなかった理由のひとつに、「みんながやっていること」に釣られて、同調してしまうという心理があるだろう。

この場合の「みんな」とは、不安いっぱいになってしまった自分と同様、「私的な不安」の解消のために競争心をむき出しにした「群衆」のことだ。人は、群衆の感情に吸い込まれると、個人の判断をどんどん見失ってしまうことがある。

買い占めパニックのようなことは、なにも今回のような事態に限らず、日々小規模に起きていることだ。たとえば、平常時でも、通りすがりのドラッグストアなどに大行列ができていると、なにごとかと気になる。「何の行列ですか?」と聞いたり、店から出てくる買い物客の手元を凝視したりして、人々が何を手に入れているのかを確認したくなる人も少なくないと思う。

それが、ある日用品や消耗品を求める行列だとわかると「そんなに不足しているのか?」と不安を感じたり、あるいは「手に入れておかないと損するのでは?」と、「群衆の競争心」が首をもたげたりして、その瞬間まで意識すらしたことのない自宅の在庫に思いをはせ、「うちは足りるだろうか?」「いま買っておいたほうがいいのでは?」と考え、列に加わってしまう。

「その欲しいものは本当に“あなたが”欲しいもの?」(幻冬舎plusで2020年1月15日配信)でも紹介したように、欲望とは、自分の独立した判断で「これが欲しい」と決めている場合よりも、「人が欲しがっている」という事実に動機を呼び覚まされている場合のほうが案外多いのだ。

こういう「みんな買っているから、いま買っておいたほうがいいのでは?」という同調に吸い込まれた人が100人、500人、1000人と集まれば、群衆と化して膨張していく。そしてそれを見た人が、また「買っておかねば」という「群衆」の心理に集団感染していくのだ。

もちろん本当に必要で買いたい人もいるのだが、人間には、自分の判断よりも、「群衆」の判断に身を委ねて行動してしまうことが、いつだって起きうるのである。

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