トヨタ「ベアゼロ」が示す賃金制度改革の布石 春闘のベア交渉はこれが最後になる可能性も

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豊田章男社長は「100年に1度の大変革期」と位置付け、ビジネスモデルの変革を進めている(撮影:風間仁一郎)

2020年春季団体交渉で自動車メーカー側から一斉回答があった3月11日、業界内に衝撃が走った。トヨタ自動車が労働組合に対し、賃金のベースアップ(ベア)を実施しないと回答したからだ。

自動車大手の中では、ホンダがベア1000円の要求に対し500円の回答(2019年は1400円)をしたが、トヨタのベアの見送りは2013年春闘以来7年ぶり。世界的に自動車市場が低迷する中でも新車販売を伸ばし、2020年3月期に営業利益2兆5000億円(前期比1%増)を見込む。一時金は6.5カ月要求に対し満額回答(10年連続)したにもかかわらず、なぜ「ベアゼロ」を決めたのか。

3月11日に会社側が開いた会見では、この点に質問が集中した。「新型コロナウイルスの感染拡大で販売の悪化が見込まれることが理由なのか」と聞かれると、会社側は「それがなくても今回の回答だった」(総務・人事本部の桑田正規副本部長)と、きっぱりと否定した。 

これ以上の賃上げは競争力を失う

トヨタ自動車労働組合の西野勝義執行委員長は、「本当にギリギリの最後で受け入れた」と話し、ベアの獲得にこだわったことを強調する。

賃金交渉を巡って、3月4日に行われた第3回目の労使交渉で、経営側の代表である河合満副社長(総務・人事本部本部長)は次のように発言している。「今、トヨタは生き残りをかけ、あらゆる分野で必死にチャレンジし、必要な投資を続けている。だが、その回収がいつになるか分からない。(賃金は)すでに日本のトップレベルの水準にあり、一度上げると下げることが難しい賃金ベースをこれ以上引き上げると、競争力を失うことにつながりかねない」。

これ以降、ベアをめぐる交渉が本格化したが、経営側と組合側の交渉は平行線をたどった。トヨタ労組の光田聡志書記長によると、「経営側は『賃金水準が高いからベアを出せないのではなく、すでに高いのに上げ続けている。もうここでやめておかないとずっとベアを続けることになる』という問題意識を示した」という。

トヨタ労組は賃金水準が製造業のほかの企業と比べても高いことは認めた一方、「組合員の働きぶりが変わっている」として、その頑張りにベアでも報いてほしいと要望。それでも、「会社側の覚悟、腹を決めたところが大きかった」と、光田書記長は振り返る。

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