安田顕「テレビでは収まりきらない」変態的魅力 凡人から変人まで自在に憑依する愛され俳優

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『愛しのアイリーン』が映画化され、主人公の岩男を演じた安田顕(撮影:重田サキネ)=2018年9月15日

1月期の民放地上波ゴールデン帯のドラマが、あまりに駄作の横並びで驚いた。医者と患者の世界には、そりゃあ正論と倫理観とお涙頂戴しかないよね。おまけに次の4月期は続編モノの嵐だし、毎度毎度同じキャスティングで大手事務所の持ち回り。「大配給会社の持ち回り」と悪名高き日本アカデミー賞ですら、ようやく『新聞記者』を評価するようになったというのに。危機感はないのか、テレビドラマ業界に。

なんでこんなことを書くかと言えば、今回取り上げる俳優の才能があまりに無駄遣いされていたから。もともと死んだ目の演技ができる人だが、今期は別の意味で目が死んでいた気もする。男も女もみんな大好き、ヤスケンこと安田顕である。ヤスケンが嫌いという人を見たことがないよね。

はぐれ・やさぐれ・しょぼくれ

演じる役の幅の広さは随一。見るたびに別人なので驚かされる。凡人から変人まで自在に憑依する力がある。社会や道徳から外れた「はぐれ」、一見ガサツで斜に構えた「やさぐれ」、どう見てもうだつの上がらない「しょぼくれ」が彼の才能を発揮できる役柄だ。いや、もっと細かく分類すれば、さらに曼荼羅(まんだら)のように広がるのだが、便宜上(そして私が好きな)3分類にしてみた。

まず、「はぐれ」。わかりやすい名詞で表すならば、極道とか変態とか悪人である。社会や人の道から外れた人間特有の「暗い目」に迫力がある。本当は、この「はぐれヤスケン」を最も観たいのだが、及び腰の地上波では到底無理だ。ドラマ「絶叫」では社会的弱者を救うフリして金も命も搾取するという由緒正しき極道を演じていたが、WOWOWだからな。

はぐれでいえば、おそらく映画『HK変態仮面』の変態教師役が最高傑作だ。吹きっさらしのビルの屋上にてあられもない姿で、変態の哲学を訥々と語るヤスケンは、まごうことなき本物の変態だった。痴的なのに知的。ほぼほぼ全裸で新宿の裏街を疾走する姿は、狂気なのにどこか正気。あそこまで恥の概念が消失している役者はそういない。静と動で演じきった、比類なき変人役を私は一生忘れることができない。

地上波キー局ゴールデンでこのはぐれヤスケンを見せてくれるドラマが生まれる時代が来るとは思えず。ヤスケンに限らず、才能のある役者は映画とNetflixに流れてしまうのは否めない。

次ページヤスケンは「第2の蟹江敬三」
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