吉野家、P&G出身役員が変えた「牛丼の売り方」 「ポスターがどう見えるか」から商品を企画

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――コアな顧客向けにどんな手を打ったのですか。

牛丼に限らず、牛肉を使用した商品を多く売ることを軸に考えた。「肉を食べるなら吉野家」というイメージを強化することに注力した。

吉野家の客層を調べると、年配の顧客が多い。年を取ったらたくさん食べないだろうと考え、「小盛」(並盛の4分の3サイズの牛丼)を2019年3月に発売した。とはいえ、広告宣伝費を多くかけられないので、知ってもらうチャンスがない。そこで「超特盛」(特盛よりも大きい最大サイズの牛丼)も同時に発売した。もくろみ通り、メディアに大きく取り上げられ、小盛とともに多くの人に知ってもらうことができた。

伊東正明(いとう・まさあき)/吉野家常務。1996年P&G入社。「ジョイ」「アリエール」「ファブリーズ」のマーケティング責任者として活躍。2018年1月から吉野家顧問、2018年10月から現職(撮影:尾形文繁)

超特盛が発売直後によく売れたのに対し、現在は小盛の方が(超特盛と比べて)1日当たり1.3~1.5倍ほどよく売れている。ここまでは狙い通りだが、サラダやみそ汁などのサイドメニューを同時に注文する顧客が非常に多かったことは、想定以上だった。客単価が上がり、粗利益も確保できた。

吉野家ファンの間でも「牛丼を食べたいけどコメは嫌だ」というニーズが高まっており、2019年5月に「ライザップ牛サラダ」を発売した。ただの牛サラダも考えたが、高タンパク・低糖質の食事をとりたいときに真っ先に思い浮かべてもらうため、ライザップと組む方がいいと判断した。

現在力を入れているのは、定食のご飯おかわり無料。これも来店頻度を高めるための策だ。1人で夕食を食べる人が増えており、吉野家を選ぶ男性客がガッツリ食べられるようにした。ご飯の原価を考えても、来店頻度が1回上がれば、その人が何杯食べても割に合う。メディアに注目してもらうため、2020年1月にはおかずを2品にした「W定食」を始めた。

郊外の女性向け新型店舗は500店に

――新規顧客へのアプローチは、簡単ではないはずです。

女性が店に入りづらいのなら、店自体を変えてしまおうと、「クッキング&コンフォート」と呼ぶ新型店舗への改装を進めている。従来のU字形のハイカウンターを廃してソファやテーブル席を設置し、コーヒーも提供してゆっくり過ごしてもらう。郊外をメインに約100店舗が改装済みで、今後500店舗ほどまで増やしたい。

新型の「クッキング&コンフォート」店舗では、改装前と比べて女性客が20%増加した(写真:吉野家ホールディングス)

もう1つがテイクアウトだ。イートインでは男性が8割だが、テイクアウトでは男女比が半々。「テイクアウト全品80円引き」キャンペーンなどの大きな割り引きをフックにして、「今日は夕食を作る時間がない」という主婦に利用してもらう施策を打っている。過度な割り引きはよくないが、大きく割り引きをしてでも1回利用してもらえれば、今度は割引きがなくても、時間がないときにまた使ってくれる。

2019年12月には、子ども向けにポケモンとコラボした「ポケ盛」という商品を出した。子どもが行きたいと言えば、お母さんがついてきてくれる。ただポケ盛は想定の十数倍のペースで売れすぎて、販売休止している。ポケ盛を楽しみに来てくれた子どもをがっかりさせてしまい、申し訳なく思っている。

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