2つの事件でドイツ政局が不気味になってきた メルケル退陣が近づく中、後継者も失脚

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メルケル首相(右)の後継者の座を断念したクランプカレンバウアー氏(左)(写真:REUTERS/Matthias Rietschel)

にわかにドイツ政局が流動化している。この1週間で大きな事件が2つ起きた。1つが旧東ドイツ地域のチューリンゲン州での州首相選出にまつわる混乱、もう1つがメルケル首相の後継者をめぐる混乱である。前者は2月5日から6日にかけて、後者は週末を挟んだ2月10日に起きたものだ。2つの事件には因果関係がある。前者の事件が後者の事件のトリガーになった。

先進国で最長の在任期間(2005年11月~)を誇るメルケル首相が退任するまであと1年余り。今後も同様の混乱が起きる芽があるため、ここで、ドイツの政局をめぐって起きたことを整理しておきたい。

2月5日、チューリンゲン州において極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持を得た州首相が誕生するという事件が発生した。歴史的教訓から極右勢力を忌避することが自明の前提とされているドイツ政界、ドイツ社会では極めてショッキングな出来事である。

ドイツでは、いずれの政党もAfDとは組まず、AfDにかかわるメディア露出も抑制されているだけに、今回の動きについて「歴史的タブーが犯された」と評する向きは多い。すでに同州では昨年10月の州議会選挙で左派政党(Die Linke)とAfDが躍進して、同州議会議席の過半数を握っており、危うい雰囲気はあった。また、ナチスが初めて閣僚を出したのも同州だったという因縁もあり、耳目を集めている。

「極右の力を借りた州首相」をめぐるドタバタ劇

経緯については若干の説明が必要だろう。チューリンゲン州首相を選出する投票では左派政党所属で現職のラメロウ州首相が再選を目指し、これまでどおりの社会民主党(SPD)および緑の党との連立を目指したが、過半数を取ることができなかった。3度目の投票までもつれたところで、中道右派の自由民主党(FDP)からケメリヒ氏が立候補し、与党・キリスト教民主同盟(CDU)およびAfDの支持で勝利した。

なお、同州議会の勢力図は第1党が左派政党(Die Linke)、第2党がAfD、第3党がCDUであり、ケメリヒ氏所属のFDPは第6党であった。第6党の候補が3度目の投票で突然現れ、第2党と第3党の支持を得て選出されたことについてクーデターや密約、八百長といったフレーズが飛び交っている。もちろん、ケメリヒ氏はAfDと密約を否定しているが、疑惑が色濃く残る結果となった。ここまでが2月5日の出来事である。

しかし、翌6日、ケメリヒ氏はわずか1日で辞任を迫られた。ドイツ政界および社会全体として「極右の力を借りた州首相」を許容する準備はできておらず、猛烈な批判を受けての辞任となった。ケメリヒ氏自身、政権運営にAfDを関与させることはないと明言し、連立参加や閣僚選出を否定していたものの、「極右の力を借りた州首相」のレッテルは事実であり、しかも一票差での選出で、政権の持続可能性を考えれば辞任は賢明だったと言える。

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