伊藤忠が4年ぶりに「商社首位」を奪還する理由 ライバル・三菱商事子会社の不正で逆転か

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この不正取引はシンガポールの子会社、ペトロダイヤモンドシンガポール(PDS社)で起きた。PDS社は原油・石油製品のトレーディングを行っているが、社員の1人が社内規定に反する形でのデリバティブ取引を繰り返し行っていた。

同取引は今夏から拡大、7月以降の原油価格下落局面での取引に伴う損失が拡大した。8月中旬にこの社員が欠勤したことで不正取引が露見。その損失額は約342億円に及んだ。

世界景気減速の影響も業績を下押し

PDS社は不正取引を行った社員を解雇し、刑事告訴している。だが、元社員は行方をくらませているという。元社員による横領等は現時点で確認されておらず、不正取引をなぜ行ったかなどの詳しいことはわかっていない。

一部報道によれば、元社員は弁護士を通じて「あくまでも上司の指示に従った取引を行っただけ。上司が承認していない取引は行っていない」と主張しているという。PDS社はこの取引で最大約308億円の債務超過に陥る見通しとなっており、三菱商事は2020年度にもPDS社を清算する方針だ。

PDS社の清算方針について説明する三菱商事の増CFO(左、記者撮影)

三菱商事が2019年度の上期に大幅減益となった理由はそれだけではない。世界景気減速の影響がはっきりと業績に表れつつある。

前期の好業績を牽引した金属資源や自動車・モビリティーは前期比で約3割の減益に。金属資源は柱となる原料炭価格の下落や生産コストの上昇が直撃した。原料炭は中国が通関を強化しているため、価格が下落気味だ。自動車事業も世界的に自動車販売が落ち込んだうえ、20%出資の三菱自動車の業績悪化で取り込み益が急減した。

対する伊藤忠は、高値で推移した鉄鉱石価格の恩恵で金属事業が好調だったことに加え、機械事業の収益改善なども効いた。ほかの商社に比べて資源事業の割合が小さく、国内事業が強いことが業績伸長につながった格好だ。

伊藤忠のある社員は「(業績が好調で)会長は大喜びだぞ」と話す。

下期も伊藤忠は着実に利益を積み上げて、三菱商事を追い抜くことができるか。総合商社首位の座をめぐる激しいデッドヒートが山場を迎えようとしている。

大塚 隆史 東洋経済 記者

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おおつか たかふみ / Takafumi Otsuka

広島出身。エネルギー系業界紙で九州の食と酒を堪能後、2018年1月に東洋経済新報社入社。石油企業や商社、外食業界などを担当。現在は会社四季報オンライン編集部に所属。エネルギー、「ビジネスと人権」の取材は継続して行っている。好きなお酒は田中六五、鍋島。

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