トランプが「弾劾騒動」をあえて煽っている意味

自国の官僚や捜査当局を信用していない

問題は、その挑戦的なやり方だ。まず、弾劾調査への協力を一切拒否し、下院と全面対決する方針を打ち出した。もちろん、閣僚や政府職員が証人喚問や文書提出の要請に応じることは厳禁だ。

さらに、ウクライナだけでなく、「中国もバイデン氏の捜査をすべきだ」と記者会見で平然と語った。習近平国家主席に要請することもいとわないとも。上海の投資ファンド会社の役員を務めるハンター氏とチャイナ・マネーとの結びつきで何かを握っているかのような口ぶりだった。

ワシントン・ポスト紙などによれば、ハンター氏の中国ビジネスは、バイデン氏が副大統領だった時期と重なる。副大統領の中国訪問に同行して政府専用機に乗って北京を訪れ、仕事の関係者と会ったこともある。共和党議員が既に利益相反の疑いに目をつけていたが、中国側も内々に調べ上げていると見るのが自然だろう。

ちなみに、トランプ大統領の攻撃を受け、ハンター氏は弁護士を通じて、この会社の役員を10月いっぱいで辞任する考えを明らかにした。

「伝統的エスタブリッシュメント」という「闇の国家」

それにしても、選挙のライバルを追い落とすため、外国政府に支援を求めたと議会やメディアにとがめられている最中、なぜ、トランプ大統領は、また懲りずに外国政府の「助け」を借りようとするのか。

結論から先に言えば、自国の官僚や捜査当局を信用していないからだ。決して苦し紛れの策ではない。

この不信感は、トランプ氏がよく口にする「闇の国家」(deep state)という言葉に表れている。今回の騒動についても「魔女狩りが米国内で起きている。恥ずべき闇の国家」とツイート。ミラー大統領上級顧問もウクライナ大統領への圧力疑惑の内部通告者を「闇の国家のスパイ」と批判した。

闇の国家とは、大雑把に言えば、国家内の警察や軍隊、情報機関、対外政策機関などが結託して非公式の集団をつくり、選挙で選ばれた指導者を操ったり、反旗を翻したりすることを指す。

トランプ氏の場合、米外交・安保政策のプロを自認する伝統的なエスタブリッシュメントとほぼ同義語と解釈していいだろう。つまり、国務省や国防総省の官僚、CIAのエージェント、FBIの捜査官、政治家、ワシントンの主要シンクタンクの専門家、主要メディアのジャーナリストらからなる非公式ネットワークで、その代表格が上院外交委員会の大御所でもあったバイデン氏だと言えなくもない。

この既得政治の恩恵を受けるエリート集団に対する強烈な反感がトランプ政権の大きな特徴だ。「国家内国家」をつくり、同盟、人権重視、民主化、自由貿易推進といった、自分たちの考え方や既成の慣習、国際ルールに従わない型破りな大統領を失脚させようともくろんでいる、と思い込んでいる。

陰謀論の匂いがプンプンするが、エスタブリッシュメント側が反トランプでほぼ結束しているのは事実だ。例えば、約1年前、司法省の副長官がロシア疑惑との関連でトランプ大統領の解任を画策したという疑惑が表面化した。今回も歴代政権で外交・安保政策を担当した元政府職員90人が、連名で内部通告者を擁護し、トランプ大統領を批判する書簡を公表した。

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