安倍内閣、説明なき「トップダウン政治」の功罪 身内で決める政治が覆い隠す政策決定過程

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安倍内閣では、重要な政策が前触れなく決定されている。写真は2019年2月の自民党大会での安倍晋三首相(撮影:尾形文繁)

どうも安倍内閣は、重要な政策を何の前触れもなく、突然決めることが好きなようである。10月18日には国家安全保障会議の4大臣会合で、安倍晋三首相が自衛隊の中東派遣の検討を指示した。

実際に派遣するのかどうかあいまいな話だが、直後の記者会見で菅義偉官房長官がオマーン湾やアラビア海北部の公海などについて具体的に言及していることから、政府内部ではすでに派遣を前提に細かく検討していることがわかる。つまり「検討指示」であるが、実質的には派遣という結論が先にありきの話のようだ。

自民党は戦後長らくボトムアップ政治だった

それにしてもなぜ、今なのか。ホルムズ海峡などで散発的にタンカーが何者かに攻撃される事件が起きているが、日本船主協会の関係者は「現地は深刻な状況ではなく、通常の航行をしている」と語っている。アメリカの強い要求があったのか、それとも何かほかの理由があるのか。当の防衛省の幹部でさえ「首相官邸が決めれば従うだけです」と当惑している。

突然の政策決定は今回の自衛隊派遣問題だけではない。7月の韓国に対する輸出規制強化もいきなりの公表だった。韓国政府の受けた衝撃は大きく、「禁輸措置だ」「日本が貿易戦争を仕掛けてきた」と大騒ぎになり、その余波は今も続いている。さらにさかのぼれば、2度にわたる消費増税の延期も唐突だった。

権力者の政権運営の手法には、最高権力者とその周りの側近らだけで物事を決めてしまう「トップダウン方式」と、広く与党や国会、官僚組織の議論や検討を踏まえて決めていく「ボトムアップ方式」がある。

戦後長く政権を維持してきた自民党の歴代首相の多くは典型的なボトムアップ方式をとっていた。首相が大きな方針を打ち出し、担当の省庁が具体的な政策案を検討する。その過程で自民党の部会や政務調査会が開かれ、業界団体などの要求を踏まえた議員の声が反映されていく。首相の一存だけで物事を決めない、「和」を重視した手法である。

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