国語で道徳を教えるな「国語よ、ロックであれ」 ブレイディみかこ×新井紀子「国語」を語る

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新井:日本では、学校は才能のある子の力を伸ばす場所にすべきだという議論が好まれます。リベラルを自称する人たちまでが、そういう話をしたがります。けれど、才能のある子を伸ばすのに予算は要りません。才能があるんだから、ほっとけばいいんです。いじめに遭わないようにすればいいだけかもしれない。

ブレイディ:確かに。

ブレイディみかこ:保育士・ライター・コラムニスト。1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞し、大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞候補となった『子どもたちの階級闘争――ブロークン・ブリテンの無料託児所から』(みすず書房)をはじめ、著書多数(撮影:尾形文繁)

新井:いちばん重要なのは、公立の小中学校の教育です。そこは、社会の格差を縮める可能性が最も高い、社会を平等にしうる社会装置なんです。あと保育園もですね。

生活保護が、緊急を要する人たちを助ける対症療法とすれば、公教育は、長い目でみて、格差を縮めることで、全員を社会で働く納税者に育てる、漢方薬のようなものなんです。納税者が少なくなってしまうと、社会は維持できません。

けれど、リベラルも含めて、子どもの才能を伸ばす、なんて甘っちょろい言葉に酔ってそれがいいと思っています。その象徴がゆとり教育だったと思います。「みんな違って、みんないい」って、それ幻想ですよね。みんないいなら、文が読めなくても、計算ができなくても、それでいいってことですよね。

ブレイディ:そうそう。多様性を理解するのに、日本では格差とか貧富の差の軸を入れてないからそうなるんですよ。

現場に行かなければわからないこと

新井:私は公立の小学校とか中学校に2週間くらい行っちゃうんです。行かないとわからないから。

ブレイディ:楽しそうですね。

新井:中学校だと、点と点を結んで定規で線分を描くことができない3年生がクラスに2人ぐらいいるわけです。なぜなのか。学習障害なのか、家庭環境なのか、そういうことは先生たちに聞かないとわかりません。わからなければ、どうすれば線分が描けるようになるのか、文章が読めるようになるかもわからない。

東京大学の教育学部の先生で、実際に小中の教育現場で授業をする方って滅多にいませんね。中学2年生に授業をしたら、生徒がみんな寝ちゃうような人が教育学の権威では、どうも説得力がない。

ブレイディ:偉い人は、社会の現状を知らないマリー・アントワネットばかりなんですよ。私も格差を縮める社会装置として、保育園や公立小中学校の教育が重要だと思います。ご著書には学童保育のことも書いておられましたね。

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