「偽物のカワイイ私」を生み出す美顔アプリの罠

本当の自分じゃない自分に承認求める人たち

写真スタジオで、飲食店などで働く女性たちのポートレートを撮影しているカメラマンに話を聞くと、最近、スタジオでプロが撮影した自分の写真に納得できなかったり、直視できなかったりする女性が増えていて、中には、美顔アプリで自撮りした画像を出して「これに似せて修正してほしい」と言い出す女性までいるという。

日頃から、自分の気に入る角度や表情の「キメ顔」だけを追究していたり、美顔アプリで撮った自分の姿をインスタグラムなどに投稿し、「いいね!」をもらうようになっており、現実の自分が受け入れられなくなっているのだろうということだった。

もちろん、そもそも自分の肉眼で見ることのできない自分の姿は、奇妙で居心地の悪い感覚がして、見たくないと思うところもあるし、現代はプロの写真もデジタル撮影だから、写真スタジオでシミやシワをとる程度の補整はできるのだが、さすがに非現実も甚だしい姿に作り変えてしまったら、本人はますます追い詰められるばかりだろう。いつか、現実の知人に「これだれ?」と言われてしまう。しかし、そこに思いが至らないほど自分を見失って病んでしまった人がいるということだ。

整形手術も一般的な時代になったが、話を聞いたカメラマンによると、自然な姿で十分きれいな人だったのに、一般に「カワイイ」とされている顔に似せて不自然に整形したり、何度も何度も手術を繰り返したりする女性が数年前よりも増えたという。

フェイクの自分に承認を欲しがるのが落とし穴

女性がメイクやファッションで着飾りたいという気持ちを持つのは、ごく自然なことだと思うし、美顔アプリが作り出す非現実の自分を「遊び」と思って使うのも普通のことだと思う。

問題は、フェイクの自分に対して「いいね!」の承認を欲しがるようになってしまった時に起きる。承認を求める気持ちは、誰にでも生まれた時から自然にあるものだが、承認を得るために、自分ではないものを偽ってしまうと、そこが落とし穴になる。

それは、自分で自分をだましたり、本当の自分を「見たくない存在」として押し殺したりして、虚飾や他人の評価に左右されて生きることのはじまりだからだ。こうなると、無用なコンプレックスが膨らんで、現実を直視できなくなってしまい、物事をどんどんそのコンプレックスに沿って歪んだ解釈で受け取るようになる。これはとても苦しいことだし、場合によっては精神的な病気につながってしまうだろう。

冒頭の私と母の支え合い「可愛いね」「若いね」の話に戻る。母との会話は、お互いの幻想を、お互いに承認しあっているという滑稽さがあって、もしこの当時に美顔アプリを入手していたら、私も母も血まなこで美顔の送りつけ合いをしていた……かも、しれない。

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