「ジョーカー」大ヒットまでの苦難多き道のり 当初、映画会社からは「狂ったアイデア」扱い

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ワーナーはバットマン、スーパーマンなどが登場するDCコミックスの映画化権をもつ。安定したヒットが狙えるヒーロー映画を作れる彼らが、わざわざ観客の層が限られるR指定の映画を作る魅力は、あまりない。アメリカの真ん中辺りの保守的な街では、R指定の映画はいっさいかけないという映画館が、今もあるほどなのだ。

さらに、過激なバイオレンス描写がある映画は、中国で検閲に引っかかる心配もある。世界第2の映画市場を諦める覚悟で映画を作ることは、ハリウッドのメジャースタジオにとって考えられないことだ(実際、『ジョーカー』は中国では上映されないと決まった)。

映画会社からは「狂ったアイデア」扱い

今作の公開直前、筆者とのインタビューで監督のトッド・フィリップスはこう言っていた。

「この企画をワーナーに持ちかけたのは、2016年。そのときは、『狂ったアイデアだね』と言われておしまいだったよ。それで僕は、『とりあえず、脚本を書いてみますので』と言って帰った。『脚本を書いてみてくれ』と言われたわけではない。とにかく、僕は、共同脚本家のスコット・シルバーと脚本を書き、1年後にワーナーに見せた。それでも、『これはいい!ぜひやろう』というわけではなかったよ。彼らにとっては大きな賭けだから」

それでも、結局、ワーナーは、リスクが高いこの映画に、約6000万ドルの、控えめな予算をあげると決めた。比較のために挙げると、『ジャスティス・リーグ』の製作予算はおよそ3億ドル、『マン・オブ・スティール』は2億2500万ドル、女性が主役ということで“高リスク”とされた『ワンダーウーマン』ですら1億5000万ドル弱である。もちろん、これらはすべて子供も見られるPG-13指定だ。

北米オープニング成績は、『ジャスティス・リーグ』が9300万ドル、『マン・オブ・スティール』と『ワンダーウーマン』はともに1億ドル強。9600万ドルの『ジョーカー』の利益率がきわめて高いのは、明白である。

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