トランプはアメリカ初の罷免大統領になるのか 「ウクライナゲート」で弾劾調査開始の波紋

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トランプ大統領はウクライナのゼレンスキー大統領(左)に対し、バイデン前副大統領とその息子に関する捜査を依頼した(写真:REUTERS/Jonathan Ernst)

現在、トランプ政権はかつてない危機に直面している。トランプ大統領は「ロシアゲート」や元不倫相手への口止め料支払いなど、これまで数々のスキャンダルを乗り切ってきた。トランプ政権下のアメリカ政治は混乱が絶えないが、今回に限っては異なる雰囲気が漂い始めている。

発端はホワイトハウスに出向していたCIA(中央情報局)職員の内部告発で、トランプ氏とウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の電話会談に関し監察官に宛てた9ページの書簡だ。これは過去約2年をかけて成果が見られなかった「ロシアゲート」を上回るダメージを過去数日間で政権に与え始めている。

トランプ政権はこれまでどおり社会の2極化を巧みに利用し、民主党を叩くことで窮地を打開できるのだろうか。今後、明らかとなる新事実に基づき、民主党と共和党の情報戦が繰り広げられ、世論がどう動くのか、注目される。

下院で弾劾成立でも、上院ではハードル高い

9月24日、これまでかたくなに大統領弾劾への言及を避けてきたナンシー・ペロシ下院議長は賭けに出た。この日、同議長が正式に大統領弾劾調査の開始を表明したことにより、下院民主党の弾劾をめぐる動きが本格化することとなった。

トランプ政権発足初日から、ペロシ下院議長に対しては民主党進歩派など党内から弾劾調査を開始すべきとの圧力があった。しかし、同議長は大統領批判を繰り返すも弾劾には消極的な姿勢を示してきた。2018年中間選挙で民主党が下院を奪還できたのには、共和党が伝統的に強い選挙区で多数の民主党穏健派が勝利したことが大きい。そのため、弾劾に拒否反応を示す激戦区の民主党穏健派に配慮してきた。

だが、トランプ大統領が自らの再選のために、政敵ジョー・バイデン前副大統領とその息子に関する捜査協力をゼレンスキー大統領に依頼し、圧力をかけたとの疑惑で、状況は急変した。一部では「ウクライナゲート」という名称も使われ始めた。民主党穏健派も次々に弾劾調査開始の支持を表明したことが、ペロシ下院議長の背中を押した。

「ロシアゲート」と「ウクライナゲート」では大統領の関わり方が根本的に異なる。2016年大統領選への介入を問題とする「ロシアゲート」の主役はロシア政府であり、当時候補だったトランプ氏がそれに間接的に関与していたかどうかが焦点だった。そして、「ロシアゲート」に関するモラー報告書は、ロシアの選挙介入とトランプ候補を結びつけるような、大統領の違法行為を明確に証明することはできなかった。

一方、「ウクライナゲート」の主役はトランプ大統領本人だ。2020年大統領選での再選を狙って自らが直接介入していた疑いが濃厚だ。バイデン氏親子に関する捜査の協力を依頼していたことは既に大統領自身も認めている。国益や国家安全保障よりも個人的な政治目的を優先した疑いがある。弾劾・罷免の根拠となりうる大統領の職権乱用ともいえよう。「ウクライナゲート」では「ロシアゲート」の二の舞いにならない自信が、民主党指導部の言動からも感じられる。

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