パーソナルソングを生業にした女性音楽家の転身 米国人シャノン・カーティスの潔い生き方

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Shannon Curtis - I Know I Know 2015年4月7日に公開されたYoutubeより

突然だが、あなたはあなたの思う「あるべき像」と、そうはなっていない「実像」の食い違いに思い悩み苦しむことはあるだろうか?

アメリカのシンガーソングライター、シャノン・カーティス(Shannon Curtis)はその葛藤を経験した。

「わたしは『パーソナルソング』の作詞作曲を提供するという仕事もやっています。記念日などに愛する人のためにという依頼が多いのだけれど、この5年で80曲ほどそういった曲を作ってきた。でも、最初に始めた年は、そのパーソナルソングの提供という仕事についてものすごく葛藤していた、『”本物”のアーティストならこんなことはしない』と考えて。」(The Entrepreneurial Musicianでのインタビューより。全文日本語書き起こしはこちら

現在の彼女はパーソナルソング提供や、「ハウスコンサート」という独自に形成した演奏活動により収入を得ている。そして、皮肉にもパーソナルソングの提供という仕事は、困窮した家計を変えねばならないという、のっぴきならない事情から思いついたものだった。

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「あるべき像」をいくら追求しても、仕事はなく、収入もない。そして、そこには達成感や幸福も存在しない。

シャノン・カーティスの場合、「あるべき像」へのとらわれから離れることができたのは、目の前の差し迫った状況だけでなく、彼女自身にとっての音楽の定義が深化・拡大したことによる。

個人の家に行って演奏しお金をもらうビジネスモデル

数多くいるシンガーソングライターの1人として、皆がやるように各地のライブハウスや学園祭を転々としながらあまり儲からない音楽活動を続けていた。そんなある日、ファンの1人から自宅リビングで演奏してほしいというメールをもらった。

そのときの体験を彼女はこう語る。

「わたしにとっては革命的だった。というのは、そこに集まってくれた人たちが、わたしがその日共有した音楽ととても深く緊密につながってくれたの。そのつながりの深さというのがとても印象的で、なにせ人の家の居間だから、何か面白い話をしたときの笑い声や、悲しいストーリーを語ったときに感情が動いた人が鼻をすする音まで聞こえる。そのつながりの深さこそ、わたしがそれまでのパフォーマンスでいつもいつも求めていたけれど得られずにいたものだった」

演奏する「ハコ」の大きさやネームバリュー、ファンの数や動員人数、知名度、肩書き。

芸術家であるはずのわれわれ音楽家も、ふと気づけばいつもそういったものを気にし、他人と自分を比較して落ち込んだり悦に入ったりしている。

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