日本製中古車両の「聖地」ミャンマー鉄道の実情 鉄道インフラ輸出、大切なのは「人材教育」だ

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通勤輸送に活躍するキハ40系車両。JR東日本のほかにJR東海や北海道からも譲渡されており、一大勢力となっている(筆者撮影)

立っているだけでもじっとり汗がにじみ出てくるような暑さの中、ヤンゴン中央駅に降り立つと、日本人にはおなじみのキハ40形気動車が窓や前面の貫通扉を全開にして停まっていた。

ミャンマーはインドネシアと並ぶ日本の中古車両の「聖地」でもあり、2003年以降、260両もの中古気動車が輸出されている。東北地方で活躍した、白地にグリーン濃淡の塗装をまとう元JR東日本の一部車両には、ミャンマーと日本の国旗をデザインしたステッカーが掲出され、なんとなく誇らしげだ。

日の丸のステッカーは車両だけでなく、駅構内の信号機やポイントの転轍てこに至るまで貼られている。これは、2018年に「鉄道中央監視システム及び保安機材整備計画」の一部として、日本の無償資金協力で整備されたものである。さらに、ホーム上の売店には五能線・奥羽線を走る観光列車「リゾートしらかみ」を模したラッピングまで施されている。

アジア最後のフロンティア

2019年5月18日、ミャンマー国鉄(MR)ヤンゴン中央駅にて、「ヤンゴン環状鉄道改修事業」信号工事及び「ヤンゴン・マンダレー鉄道整備事業(フェーズ1)」パズンダン―バゴー間の合同起工式が実施された。

わが国はこれら2つのプロジェクトを円借款事業として実施しており、昨年11月に起工したバゴー―タングー間と合わせ、当面のプロジェクト全区間での工事が着工したことになる。残るタングー―マンダレー間は今後、同鉄道整備事業の「フェーズ2」として実施され、合わせて総延長700km弱という大プロジェクトで、いずれの事業でも日本製の新型電気式気動車が導入される予定だ。

民主化以降、急速な経済発展を遂げるミャンマーは、都市部を中心とした将来における交通渋滞の解消、また主要都市間における旅客、貨物双方の輸送力確保のために鉄道の近代化が急務となっているだけでなく、「アジア最後のフロンティア」をかけた覇権争いの場でもあり、中国を筆頭に、韓国・インドも着々と同国への鉄道支援を進めている。

違和感を覚えるほどに「日本」を強調した車両のステッカーや駅の装飾は、各国が進出する中での危機感の表れとも感じられる。

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