ダイキン、「重要特許を無償開放」の衝撃

「誰1人取り残さない」環境志向の新・特許戦略

今回の「特許権不行使宣言」は、「R32を用いたエアコンに他社が対象特許を使用しても、ダイキンはその権利を主張しない」というものだ。この宣言により、他社は一定条件下における特許の使用について、ダイキンから訴えられることがなくなる。

ダイキンとしても、相手企業との契約行為を省略することができ、技術のスムーズな普及が期待できる。しかし特許権を放棄したわけではなく、仮に他社との係争が発生した場合には、特許権を盾に自らの身を守ることができるというわけだ。ソフトウェア業界など他分野ではこれまで利用されてきたスキームだが、製造業では非常にユニークなものである。

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地球温暖化に与える影響の度合いを数値化したものが「地球温暖化係数」。R32の環境性のよさが一目瞭然だ

なぜダイキンは、これほどまでにR32にこだわるのか。「エアコン用冷媒の中でも、R32は安全性、エネルギー効率、経済性、環境性といった多面的なバランスがよい。すべての要求を満たす理想的な冷媒はまだ見つかっていませんが、かといって何もしないでいるわけにはいきません。手をこまねいて待っている間にも、地球温暖化はどんどん進行してしまう。まずはできることから、とにかく迅速に実行していくことが大事だと考えました」(山中氏)。

確かにR32の地球温暖化係数(GWP100年値)は、従来使用されてきた冷媒「R410A」の約3分の1と非常に小さい(上図参照)。もちろんオゾン層破壊係数もゼロで、地球温暖化への影響を抑えられる優れた冷媒だ。すでに世界で広く流通しており簡単に入手可能なうえ、回収・再生も容易で、冷媒の新規生産量そのものの削減にも役立つ。 

「今回の特許無償開放をきっかけに、R32のさらなる普及が期待できます。当社はエアコンメーカーとして、また冷媒メーカーとして、これからも環境保護に向けた施策を積極的に実施し、地球温暖化抑制に貢献していきたいと考えています」(山中氏)

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この5年間で、R32市場は大幅に拡大。今では多くのエアコンメーカーでR32が使用されている

ダイキンは2012年に世界で初めて(※2)、R32を使用した家庭用エアコンを発売している。「R32は今や世界中で支持されており、当社を含む日本のエアコンメーカーも、また海外他社も使用しています。R32使用の空調機器は6800万台以上販売されている状況(※3)。市場は年々拡大しています」(山中氏)。

日本ではすでに広く普及しているエアコンだが、その需要はインドやベトナムといったアジア圏の国々を中心に、近年いっそうの高まりを見せている。エアコンが備え付けられている建物は全世界で約16億棟であったが、50年には約3倍の56億棟にまで増加する見通しだ。

さらに50年には、世界の約3分の2の世帯がルームエアコンを持つと予測されている(※4)。こうした現状に対する実現性の高い施策として、温暖化影響の低い冷媒を採用しつつ、省エネ性も高めたエアコンのさらなる普及が期待される。

日本有数のグローバル企業として、空気課題の解決に貢献し、安心・安全な空気環境を提供してきたダイキン。18年には、50年に向けて温室効果ガス排出ゼロを目指す計画「環境ビジョン2050」を策定するなど、環境問題に腰を据えて取り組んでいる。環境保護がビジネスシーンの一大テーマとなっている今、同社の理念はエアコンの普及とともに、世界に広がり続けていく。

>ダイキンが「冷媒問題」に取り組む理由

※2:ダイキン調べ。2012年11月1日発売、家庭用壁掛形ルームエアコンにおいて
 ※3:ダイキン調べ。2018年12月の推計値 ※4:出典 国際エネルギー機関(IEA)「冷房の未来(The Future of Cooling)」

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