「ホルムズ海峡問題」に巻き込まれた日本の憂鬱 有志連合に参加するか否かという踏み絵

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イランによるイギリス船籍タンカー「ステナ・インペロ」の拿捕などで、ホルムズ海峡の緊張感は激化の一途をたどっている(写真:Mizan News Agency/ロイター)

6月にホルムズ海峡付近で日本のタンカーが攻撃された後も、イランによるイギリス船籍タンカー「ステナ・インペロ」の拿捕(だほ)や、アメリカ海軍によるイラン無人機の撃墜など周辺海域をめぐる緊張は激化の一途をたどっている。

ドナルド・トランプ大統領がアメリカの無人偵察機撃墜への報復命令を10分前に撤回した一方、イランもヨーロッパ諸国による外交によって核合意が存続されることに期待を寄せており、双方とも戦争は望んでいない。

イラン「戦略的な忍耐」路線に転換

ただ、イランは「全面的な経済制裁」を目指すアメリカの圧力を受け、「市民の忍耐は限界に達しつつある」(イラン在住者)ことから、「戦略的な忍耐」という外交路線を転換。アメリカの無人機を撃墜したり、イギリス領ジブラルタル沖で起きたイランのタンカー拿捕に対してイギリス船籍タンカーの拿捕で報復したりするなど、軍事力を織り交ぜた強硬路線を突き進む。ホルムズ海峡やイランに面したオマーン湾など広大な海域で、イランは民間のタンカーという「ソフトターゲット」を自由に狙える状況にある。

得意のゲリラ戦術で原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡を「人質」に取る形になっており、欧米を相手に「チキンゲーム」を優位に展開しているようにも見える。だが、この危険なゲームの先にあるのは、アメリカが流布してきた「イランは危険」との言説の広がりであり、イランが望むところではないだろう。さらなる偶発的な衝突が戦争に発展すれば、アメリカ軍という圧倒的な火力を前に、アメリカ側にも大きな人的被害が生じるが、イラン優位の状況は一気に逆転するだろう。
  
ホルムズ海峡周辺での不穏な動きが始まったのは、海峡近くのアラブ首長国連邦(UAE)東部フジャイラ沖の排他的経済水域(EEZ)で5月12日朝に起きたサウジアラビア船籍の石油タンカー2隻など計4隻に対する攻撃だった。さらに、安倍晋三首相がイラン訪問中の6月13日、日本のタンカーなど2隻が攻撃を受けた。いずれもイラン関連勢力の仕業との見方はあるものの、決定的な証拠はなく、謎に包まれたままとなっている。

ところが、イランは6月20日(アメリカ時間)にホルムズ海峡上空で米無人機を撃墜したほか、7月19日には、イギリス船籍タンカー「ステナ・インペロ」を拿捕。ジブラルタル沖で7月4日にシリアへの原油を積んでいたとされるイランのタンカーが拿捕された後、イラン最高指導者のハメネイ師は「悪意のある行為には対抗する」と報復を示唆しており、実力行使で報復に打って出た形だ。

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