「卵」がいつでもこんなに安く買えるという異常 年間48億円の税金を投入している事業とは?

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消費者が安い卵を買い求める裏側で、生産活動維持のために税金が使われています。写真はイメージ(写真:freeangle / PIXTA)

価格がほとんど変わらない代表格で、物価の優等生と言われる卵。スーパーでは10個入り1パックが200円前後で売られており、特売日などでは150円以下の場合もある。1個に換算すれば、15~20円。当たり前だが、卵は鶏が産んだ命の源だ。それゆえに栄養豊富で、戦前は病人へのお見舞いの品にも使われたほどだ。日本では生卵を食べる習慣があり、TKGとネーミングされる「卵かけごはん」も国内外で人気だ。

全農鶏卵卸売価格(M規格)でみると、戦後の1953年(昭和28年)に1kgあたり224円だった。現在の価値に換算すれば1953年の卵の価格は1000円を軽く超える。卵は高級品だったのだ。2005年(平成17年)には204円/㎏、2010年(平成22年)には 187円/㎏だ。直近の2018年の年平均は180円/kgと年々下落傾向にある。

卵の価格はなぜこんなに安いのか

栄養豊富で、生でも調理しても美味しく、便利な卵だが、なぜこんなに安いのだろうか。それは生産効率を高めているからだ。つまり生産者のコストを抑える努力の結果といえる。円高による輸入飼料の価格低下、鶏の品種改良、生産技術の向上など要素はいろいろあるが、供給過剰も指摘されている。そうしたなか、市場価格が安くなると生産者への負担が増す。

もちろん、卵は鶏(採卵鶏・レイヤー)が産むものであり、コスト削減が鶏の生き物としての尊厳を無視し、劣悪な環境を強いている場合があることも忘れてはならない。そして、安すぎる卵の赤字補てんや、過剰な採卵鶏を減らした場合には、生産者へ国からの補助金が交付される。すなわち、物価の優等生と言われる卵に税金が投じられているのだ。

2018年度に農林水産省の「成鶏更新・空舎延長事業」が5年ぶりに行われたことを知る消費者は少ないだろう。この事業は農林水産省の「鶏卵生産者経営安定対策事業」の1つだ。

この「成鶏更新・空舎延長事業」と「鶏卵価格差補塡事業」の2つからなる「鶏卵生産者経営安定対策事業」には多額の予算があてられており、2018年度の農林水産省の予算額は48億6200万円にのぼる(予算であり、実施のない場合は支出されないが、同年度は全額拠出)。事業実施主体は一般社団法人 日本養鶏協会だった。

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