「戦争論」をあえてビジネス書として読む効用

ビジネス戦略での防御・集中・天才の本質

しかし、同時に強烈な違和感をいだいた。その企業の栄枯盛衰を語る分析そのものが、再現性がないようにしか思えなかったからだ。これはよくいわれるように「すべての経営分析は後付けであり、空しい」と批判したいわけではない。ヒット商品のヒット要因が後付けであるとおり、すべての分析は後付けであらざるをえない。後付けであっても、人間は、なんらかの意味がないと生きていけないから、それはやむをえない。

私の違和感は、その分析が見事であればあるほど、個別性が高いと思った点にあった。たとえば、「あるタイミングで新商品を開発しなかった」という倒産理由があったとする。なるほど、その企業の倒産理由はそうだったかもしれない。しかし、そのタイミングで新商品を開発したとしても、その後、違う理由で倒産したかもしれない。考えるに、倒産の理由など無数にあるに違いない。

とすれば、その100を覚えるとは、つまりはすべてを防ぐことにほかならない。成功要因もそうかもしれない。しかし、成功要因は100よりもっと多く、1000もしれないし、1万かもしれない。それを覚えることはできない。とすれば、良さそうなものをやってみるだけだ。その良さそうなものが、緻密な精査によるものか、直観かによるかのちがいはあるかもしれない。

ただ、ここで私は、ふたたび思い出さざるを得ない。愚者も賢者も、行動レベルでは変わりがないかもしれない、と。

読みあぐねている人に伝えたい『戦争論』からのヒント

不朽の名作といわれ、そして、おおくのひとが実際に手にとったことはない書にクラウゼヴィッツ『戦争論』がある。タイトルの通り、戦争を語ったものであり、その本質をえぐったものとして200年間ほど読みつがれている。

私はクラウゼヴィッツ『戦争論』を、発想源として使う。『戦争論』の衒学的な解釈だとか、有名な研究者が説く正しい読み方などは、私にとって興味がない。過去の偉人が生涯をかけて綴ったテキストを誤読してでも、実社会に活かすヒントを得ようとする。

クラウゼヴィッツは1780年にプロイセン国に生まれた。彼はナポレオン以降の近代的な戦争を分析し、その体系を『戦争論』にまとめた。その量は莫大なものとなっており、かつ、未完となっている。戦争と政治についての内容については書き直す必要性を感じていたようで、実際に第一篇は書き直されている。しかし彼は過程で鬼籍のひととなった。

そのような理由もあって、『戦争論』を読むと、つながりが不明だったり、推敲前ゆえか散文すぎたりして理解できないところもある。率直にいえば矛盾している箇所もある。また、それが、後年に『戦争論』を読む論者たちが、そこに都合の良い教訓のみを引き出したり、自分の思考と違う箇所のみを批判対象とできたりした。

ただ、いくつかのポイントはある。なによりも『戦争論』は戦争を政治のプロセスとしてとらえたことにある。戦争とは三位一体であり、その要素で構成されている。

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