JR九州vs外資ファンド「株価倍増」めぐる攻防戦 にっこり笑って「鉄道事業には注文付けない」

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米ファンドに株主提案を突き付けられたJR九州(撮影:梅谷秀司)

「JR東日本、JR東海、JR西日本といった本州3社の株式は買わないのですか」

記者の質問に、目の前の人物はにっこり笑ってこう答えた。「興味はあります。でも、投資はしていません」――。

ファーツリー・パートナーズの投資責任者、アーロン・スターン氏(記者撮影)

本州3社の株式ではなく、彼が選んだのはJR九州の株式だった。この人物はアーロン・スターン氏。人懐っこい笑顔が魅力的だが、アメリカの投資ファンド、ファーツリー・パートナーズの投資責任者を務める。上場企業の経営者に対して経営改革を迫る「物言う株主」が、5月20日、都内で報道陣の質問に答えた。

ファーツリーは1994年に設立され、預かり資産は約60億ドル(6600億円)。さまざまな資産クラスや地域に投資し、日本でも10年ほど前から積極手に投資活動を行なっている。2016年10月のJR九州の株式公開時に同社株式を取得。その後も株を買い進め、昨年12月、同社株式の5.1%を保有する大株主に踊り出た。さらに今年3月にはJR九州の持株比率は6.1%に上昇、同時にさまざまな株主提案をJR九州に突きつけている。

鉄道vsファンド、バトルの歴史

鉄道会社と米国投資ファンドの対立事例としては、2013年前後に起きた西武ホールディングス(HD)の株式をめぐる同社経営陣とアメリカのサーベラス・キャピタル・マネジメントのバトルが強烈な印象を残す。

西武鉄道は有価証券報告書の虚偽記載が発覚し、2004年12月に上場廃止に追い込まれた。その後、同じ西武グループのコクドやプリンスホテルを巻き込んだグループ再編に発展し、2006年1月に新設の西武HDの傘下に西武鉄道とプリンスホテルがぶら下がるという現在のスキームが固まる。サーベラスは新生・西武HDの約1000億円の増資を引き受け筆頭株主に。この時点でサーベラスは、間違いなく西武の救世主であった。

ただ、西武グループの経営再建が順調に進み、西武HDが株式の上場が視野に入ってくると、西武HDとサーベラスの間に意見の食い違いが見られるようになってきた。「誰からも後ろ指を指されない適正価格で上場したい」(後藤高志社長)と、できるだけ高値で上場させて多額の売却益の獲得を狙うサーベラス。西武HDの経営陣の目にはサーベラスが提案する経営改善策は自らの利益だけを追求しているように見えた。

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