自民党の「外交青書」批判、何が時代錯誤か 「憂さ晴らし」の場と化す自民党内部の議論

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日ロ間で平和条約に関する交渉が行われる中、確かに北方領土問題に関する安倍首相や河野外相の言動は大きく変わった。かつて日本政府は北方領土について「ソ連が不法に占拠した」「わが国固有の領土である」など強い調子で表現するとともに、旧ソ連やロシアの対応を批判してきた。しかし、日ロ間で平和条約交渉が始まると、安倍首相らのトーンが穏やかなものに変わった。交渉当事者としては自然な対応だろう。

そして、過去1年間の外交を記録するという『外交青書』の趣旨から言えば、首相や外相の発言に沿った内容を記録するのは当然なことでもある。しかし、威勢のいい自民党議員からすると、それが物足りないのである。ロシア側が「日露間の領土問題はない」などと過去の主張を蒸し返しているだけに、日本政府も負けずに強い姿勢で臨めと言いたいのだろう。

過去の『外交青書』を見ると、北方領土問題に関する記述は日ソ(日ロ)関係や国際情勢の変化に合わせて頻繁に変わっている。冷戦時代、日ソ間で首脳会談や外相会談などの人的交流はほとんど行われておらず、書簡のやり取りなどが中心だった。

交渉の進展とともに、記述は抽象的に

1961年の「青書」には、日米安保条約改定を批判するフルシチョフ首相と池田勇人首相との間で数回にわたってやり取りされた書簡の全文が載っており、専門家にとってもなかなか読み応えがある内容となっている。「外交」が成り立っていないため、逆に「青書」で書簡まで公表できた。

ゴルバチョフ書記長(のちに大統領)が登場した冷戦末期あたりから、海部、細川、橋本、小渕、森、小泉首相らと日ロ間の首脳会談が実現し、協議の内容も外交交渉らしくなってきた。それに合わせて「青書」には会談内容の記録などが書かれてきたが、交渉が進めば進むほど公表できる部分が減ってきたことを反映して、記述は抽象的で簡素なものになっていった。それと同時に、強硬論を含めた日本の主張や立場を、いちいち念を押して記述することもなかった。

日本の立場については、2000年代初めのころは、「北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結」することと、「日露関係の完全な正常化」「日露間でのさまざまな分野における協力と関係強化」が併記されていた。2005年以降は「日本固有の領土である北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、これにより日露関係を完全に正常化するという一貫した方針を維持」という表現となった。そして、第2次安倍政権以降は2018年版まで、「北方領土問題は日露間の最大の懸案であり、北方四島は日本に帰属するというのが日本の立場」という表現が続いていた。

次ページ大きく変化した2019年版の記述
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