日本人にわからない「米朝中」の奇妙な三角関係 ミサイル発射に関税措置がまた始まった

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なかなか先が見えない米朝関係。重要なカギを握っている中国の思惑は(写真:Jonathan Ernst/ロイター)

5月上旬、北朝鮮との核廃棄交渉と対中国貿易戦争という2つのアジア危機にいくつか動きがあった。まず金正恩朝鮮労働党委員長が動いて短距離ミサイルの発射実験を行い、5月9日には2回目の実験も実施。翌日にはドナルド・トランプ大統領が中国に狙いをつけ、米中両国がワシントンでまだ交渉しているさなか、中国からの輸入品に一連の新しい関税を課したのである。

トランプ大統領と金委員長はウマが合うようで、「外交でモノを言うのは威嚇と腕力だ」という信念でも一致しているようだ。2人が繰り出すメッセージは、慎重に言葉を選び密室でしめやかに取り交わす覚書とは違って単純明快である。だが行間までわかりやすいかといえば必ずしもそうではなく、直接の相手だけでなく世界中の観客をも念頭に置いた含みを有している。

関税措置を見せたかったのは習近平ではない

例えばトランプは、関税を武器にした外交を好むが、今回中国に対してこれを使ったのは習近平国家主席に「勘違いするなよ」というメッセージを送るためである。もし習主席が「景気後退懸念の高まりからアメリカ大統領は焦って取引に臨んでいる」と考えているのならそれは間違いだ、とことんやるぞ、というわけである。

しかしトランプ大統領がこの関税措置を見せたかった相手は、習政権よりもむしろアメリカの膨大な有権者だろう。フロリダ州での演説で明らかにしたように、トランプ大統領は反対勢力たる民主党陣営から「中国に対して弱腰だ」と批判されないよう警戒している。

ここで反転攻勢に打って出るべく、中国との対立を軽視してきたジョー・バイデン元副大統領をはじめ民主党陣営を攻撃する政治的武器として、中国を使いたがっているわけである。

金委員長も、習国家主席と同様「美しい」手紙をトランプ大統領に送っており、大統領も喜んで受け取っているようだ。しかし、金委員長はほかの方法でもアメリカとコミュニケーションを取っている。外交問題評議会で長年朝鮮を担当するスコット・スナイダー氏が言うように、2月末に大失敗に終わった2回目の米朝首脳会談以来、北朝鮮は「金は弱い立場ではなく強い立場に立って動いている」と思わせようとしてきたのである。

北朝鮮の交渉術に関して最も権威のあるスナイダー氏の観測によると、ベトナム・ハノイで開かれた2度目の会談以降、金委員長は実績のある挑発テクニックに回帰したという。実際、北朝鮮はまずミサイル発射試験場を再開し、続いて一連の武器発射実験を行い、そしてロシアのプーチン大統領と会談を行うなど、他国との同盟を模索。こうした外交努力と「自力救済」との合わせ技で制裁圧力など乗り切ってみせる、とアピールしている。

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