発達障害を職場で告白した30代男性の苦悩

福井・県共生社会条例から1年、進まぬ理解

発達障害者の能力が生かせる環境づくりを考えたシンポジウム。社会や企業の理解が必要だ=3月、福井県永平寺町の福井県立大学永平寺キャンパス(写真:福井新聞)

希望通りだった。福井県内の福祉施設に新卒でUターン就職できた。自分に向いていると思っていた、利用者と接する仕事を任せてもらえた。

しかし、3カ月で上司に向いていないと判断され、事務に配置換えになった。「ひょっとしたら」と精神科を受診し、発達障害と診断された。

30代の大輔さん=仮名=は、小学生の頃から同級生とうまく交われず、仲間外れにされることも多かった。「興味の範囲が狭く、しかも人とずれているから話が合わない」。県外の大学に進学して始めたアルバイトはどれも長続きしなかった。「『ありがとうございます』の言い方がふざけていると怒られた。そんなつもりはないのに」

大学の実習先だった老人ホームでは、利用者とうまくコミュニケーションできたと手応えを感じたが、就職して実際に働いてみると、利用者や上司の要求に臨機応変な対応ができなかった。「一度に頼み事を複数言われると、どれか一つは忘れてしまう」。両手を前に出して視野が狭くなるジェスチャーをしながら「こうなっちゃうんですよ」と淡々と語る。

福井県発達障害児者支援センター「スクラム福井」には毎年約800人、約6千件の相談がある。そのうち3割が仕事に関する相談だ。副センター長の野村昌宏さん(42)は「発達障害のある人は外見からは何が苦手か分からない。あいさつができない、融通が利かないといったことが積もって対人関係が悪くなり、離転職を繰り返す人が多い」と現状を説き「大人の発達障害に対する企業側の理解は進んでいない」と指摘する。

歩み寄る努力

「目の悪い人が眼鏡をかけるように、周りの音が気になって集中できない特性がある人には防音ヘッドホンを認めるなど、個々の苦手なことに配慮することこそが『公平』だ」

発達障害者の能力が生かせる環境づくりをテーマに福井県立大学永平寺キャンパスで開かれたシンポジウムで、発達障害のある子どもがいる日本発達障害ネットワーク福井事務局長、永井弘明さん(63)は「発達障害者が社会に適応する努力はもちろん大事だが、努力しても個々の特性は変わらない。社会が発達障害者に適応する努力も必要だ」と歩み寄りを期待した。

大輔さんは発達障害と診断されてから「自分が福祉を必要としている立場だからこそ、福祉が必要な人の力になりたい思いが強くなった」と事務の仕事を辞め、別の福祉施設の現場で働くようになった。思い込みが強いという診断が出たことで自身の特性を受け入れることができ「周りに聞いて、教わった通りにやる」ことを意識している。

障害者の社会参加や差別解消を推進する「障害のある人もない人も幸せに暮らせる福井県共生社会条例」が昨年4月に施行されて1年になる。大輔さんは発達障害があることを職場に打ち明けているが「『トロいな』と言ってきたり、僕にだけきつく当たる先輩や同僚もいる」と話す。「ハラスメント禁止を徹底してもらえれば働きやすくなる」と条例の理念浸透を願った。

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