古典をあえて「曲解」して仕事に応用するコツ

ヴェーバー名著から「新たな顧客創造」考える

そこで、まず資本主義の精神が誕生する前の、ひとびとの様子を記述した箇所から見てみたい。

<従来一モルゲン〔エイカー〕の刈り入れにつき一マルクの報酬で日々二・五モルゲンを刈り入れて、一日につき二・五マルクの報酬を得ていた労働者が、出来高賃金率が一モルゲンにつき二五プフェニヒ引き上げられたのに応じて、報酬の引き上げによって期待されたように、たとえば三モルゲンを刈り入れて三・七五マルクの報酬を手に入れることをしないで――そうした場合も、もちろんあったろうが――一日にわずか二モルゲンを刈り入れるに止まり、従来と同じく一日二・五マルクの報酬を得ることで(聖書の言葉を使えば)、「足れり」とした。報酬の多いことよりも、労働の少ないことの方が彼を動かす刺激だったのだ。彼が考慮にいれたのは、できるだけ多く労働すれば一日にどれだけの報酬が得られるか、ではなくて、これまでと同じだけの報酬――二・五マルクを得て伝統的な必要を充たすには、どれだけの労働をしなければならないか、ということだった。まさしくこれは「伝統主義」とよばれるべき生活態度の一例だ。>

ここには報酬を追求する態度はない。なぜならば、次のような理由による。

<時間がかぎりなく貴いというのは、その失われた時間だけ、神の栄光のために役立つ労働の機会が奪いとられたことになるからだ>

無条件に信じる根拠のなさこそが重要

ヴェーバーは、このような状況から、ルター、そしてカルヴァン派の流れをもつプロテスタンティズムが資本主義への流れを作ったと説いた。これはかなり大胆な説のように思える。なぜならば、彼らは、神が人間の運命を予定しているとした。そして、それには抗えないとした。とするならば、なぜ不運のなかで朽ち果て、地獄に行く可能性がある人間たちが、正しく商売をしようとするだろうか。

そこに、前述の社長が語ったセリフのような、あざやかな逆説が存在しうる。神から選ばれたと無条件に信じる、その一点のみの根拠なさこそが重要なのだ。そして、それこそが、プロテスタンティズムが資本主義の流れをつくった真因にほかならない。引用してみよう。

<私はとりわけ、事業に大成功し、晩年には巨大な富をつんでいたある製造業者のこと――他にもたくさんの事例はあるが――を想い出す。彼は頑固な消化不良の治療のため、医者から毎日少量ずつ牡蠣を摂るようにすすめられたとき、容易にそれに応じようとはしなかった。彼は生前から慈善事業に巨額の寄付をしており、また「気前のよい」性格だったことから見ても、その動機が、決して「吝嗇」といったものではなく、ただ財産を享楽にあてることは道徳上危険だとする、あの「禁欲的」感覚の名残だけが問題だったことは明らかだった。(中略)彼によると、そうした巨万の富を子供たちに遺してはならない。それというのも、自分で働き利得すべきだという道徳的善行から、子供たちが遠ざかるようなことがあってはならないからだった。>

つまり、「合理性」と「節制」のためには、神を信じる「非合理性」と、自分の人生を賭すという意味での「浪費」が必要であるとヴェーバーは分析している。

もっとも、私が指摘するまでもなく、ヴェーバーの説についてはさまざまな批判がある。資本主義はかならずしもカルヴァン派をつぐものだけではない。ユダヤ、カソリックも、別の形態をもちながら資本主義を発展させてきた。

しかし、私はそのような議論にはあまり関心がない。私にとっては、曲解であろうが、このヴェーバーの説がどのように自分に役立つのか。その一点のみにある。

冒頭で私は、哀しみゆえの飛翔を紹介した。そしてヴェーバーは、現代的な観点でいえば、ビジネスにもっとも遠い宗教者が、近代資本主義精神の源流にあたるとした。正反対こそ、もっとも、転化しうる。これはおそるべき発見ではないだろうか。

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